災厄

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災厄

猛烈な悪寒と共に雷に打たれたような衝撃が走る 「エルニ様、そんな怖い顔をされてどうかされたのですか?」 「皆、安全な場所に避難を アタシがいいって言うまで絶対に出ちゃだめ」 「は…はい!」 妖精族を攫おうとする強欲な人間は後を断たない その美しい羽根は非常に高い価値があるらしく、どんな手段を用いても手に入れようとしてくる 妖精族を統べる者としてこのような人間からいかに安全に仲間を守るか ずっとエルニを悩ませていた 「魔神族と同じ力を使う下賤な者達よ! 今おとなしく降伏すれば命だけは助けよう!」 「女神族の犬のお前達より下賤なものはこの世界には存在しないよ」 突然目の前にエルニが現れた事により、どよめきが起きる 普段は抑えている魔力を殺気とともに全開にしているのだ、無理もない 圧倒的なその魔力に怯んでいた いつもの掴み所のない笑顔を崩すことなく、人間たちを見据えるその目の奥には、言い表せない虚構が存在していた 「おとなしく降伏するのはそっち アタシの仲間を傷つけたらどうなるかわかってるよね 今すぐ森から出ていけ」 「我らが降伏? 女神様のご加護を受けた我らが貴様のような者に背を向ける? そんな事があっていいはずがない! 我らは女神様の命で貴様らを粛清しに来たのだ! しかし、女神様はとても寛大だ 貴様らがおとなしく従うのであれば、我らの仲間として迎え入れてくださるのだ 拒否する場合は……」 「そんな大義名分信じるとでも? アタシ達の羽根で金儲けすることしか頭にないくせに それを正当化するために女神族の名まで持ち出すなんて…… 創世神様がどうしてお前達みたいな下賤な種族を作られたのか理解できない」 「貴様!我らを愚弄する気か! いいだろう、この方を見てもそれが言えるのか?」 人間達が道を開ける 仰々しく登場したのは本物の女神族だ (羽根が二本……下位か…よかった) 女神族は羽根の数で階級が違う 最上位の羽根の数は6本 一つ下の上位は4本 最も下位は2本 羽根の数によって力が大きく変わった 上位より上は滅多に姿を表さないものの、エルニ一人ではとても相手にできる力ではない 「妖精族よ、最後の通告です おとなしく我らに従いなさい」 「お前たちがアタシ達にした行いを全て悔いて謝ったとしても、それだけは拒否する」 「そうですか」 女神族が開けられた道を戻っていく と同時に人間達が一斉に襲いかかる 「妖精王を甘く見てもらったら困るな」 その方向に向かって手を降る 地面から無数の巨大な茨が一瞬で人間を貫く 「やはり妖精王となるとその力は絶大ですね」 背後から声が聞こえる 素早く身を翻す 放たれた鋭い剣撃がエルニを掠めた 「そこから続きますか?」 繰り出される連撃を全て避けつつ、人間達への攻撃も忘れない 茨が、木の根が、巨大な食虫植物が、確実に人間達を減らしてゆく 「流石、と言いましょうか やはりアレの力を借りねばなりませんね」 巨大な雷鳴が鳴り響く 空間が歪み、そこからあふれる眩い光の中から、巨大な鎧が現れる 「なッ……そんなまさか…」 女神族が作り出した兵器、アルマプリア 先の聖戦でも用いられ、その力は魔神族すらも一目置いたほどだった 「ハールネマ…レユピニマ……ルヴーヌマ!!」 アルマプリアが大樹の方に向かって剣を翳す 白い無数の球体が浮かび上がってくる その一つ一つの中に隠れていた妖精族達が囚われていた アルマプリアに引き寄せられていく 「させない!……なッ!!??」 アルマプリアを止めようとした瞬間、目の前に格子が現れる 「鳥型か!?」 「ご名答です」 鳥型の聖獣は鳥籠を所持しており、中に閉じ込めた者が魔力で破ろうとすればするほど、その力を利用して鳥籠は強固になっていく 「実はこのアルマプリアは上の方々には無断で使用しているので、傷つけられては困ります この戦い自体、上の方々の命ではありませんが…… 妖精族を全滅させたとなれば、賞賛はされど、罰せられることはないでしょうね」 檻を繋いだ馬型の聖獣が現れる 白い球体が地面に降り、一つ一つ球体を壊して檻に妖精族を押し込んでいく 「汚い手で皆に触れるな!!」 格子の隙間から手を出して茨を呼び出そうとする 「グッ……アッ…!!」 力を込めれば込めるほど力が奪われていく 「おとなしくしていてください あなたは生け捕りにして最高神様に捧げるのです 傷物になっては困ります」 「うるさ……い!」 どれだけ力を込めても茨が現れる気配はない 力は奪われ徐々に視界が歪む 最後の一人の囚われた球体が壊される 中の妖精に手が伸ばされる 「させ……る…か!!」 仲間を何としても守る その強固な意志は何よりも強い 先程人間を攻撃したほどの大きな茨ではないが、仲間が逃げ出せる隙を作れる位の力を持った茨が人間を襲う 「早く……皆逃げて!!」 エルニが作った隙を利用し、皆一斉に逃げ出した しかし 「全く、たかが妖精相手にどれだけ時間を掛ければいいんだ アルマプリアに鳥型まで呼び出して」 一番最初に逃げ出した何人かから血飛沫が上がる 「……あ………」 エルニは絶望した 仲間を切った女神族の背中にある4本の羽根に 仲間の体から上がる赤い飛沫に 「檻に戻れ、今死んだ者のようになりたいか?」 怯えきった妖精族をまた無理矢理檻に押し込む人間達 「羽根は傷ついていないだろう これも持っていけ」 仲間の死体も檻に投げ込む 「申し訳ありません」 「まぁいい、結果は上々だからな」 檻が閉まり、馬型の聖獣が走り出す 「さて、雑魚の処理は人間に任せて……」 その場にいた全員が戦慄する            鳥籠が    鳥型が       消えている その圧倒的殺気 その圧倒的かつ禍々しい魔力 「愚かな女神族よ、下賤な人間よ アタシに歯向かったこと、後悔するがいい」
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