ネコチャン!

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ネコチャン!

希美(のぞみ)ってさあ、いつから心霊写真家になったわけぇ?」  同じ大学の友人、鈴菜(すずな)は大爆笑の後そう言い放った。私は腐りたくなる。こっちだって、何も好き好んで失敗写真を晒しているわけではないというのに。  午後の授業が終わった教室は、帰り支度をする生徒でごった返している。腹がよじれんばかりに大笑いした鈴菜は、周囲の奇異なものを見る視線もなんのその、いまだ涙目になってニヤついている状態だ。当然私は、頗る面白くない。 「……そんなもんに興味あるかいな。私が撮りたいのはもふもふなんじゃい」  ぶう、とふてくされる私の視線の先。スマホに表示されている画像は、自宅のソファーの上を撮影したものである。  ただし、青いソファーの上にはぼやーっとした黒い線のようなものが入り、さながら幽霊でも通過したような有様となっているが。――自宅で飼っている白黒ブチ模様の猫、“ネコチャン”を撮影しようとして失敗した、というのが真実だった。デブの巨体のくせに、何故だか動きだけは妙にすばしっこい。特に、写真を撮ろうとこちらが頑張るたび、無駄な加速を見せては家族を翻弄してくれるのだ。  おかげさまで我が家には、彼の真っ当な写真が一枚もない。写真になった途端、彼はとんでもない瞬足を発揮してハリウッドばりのホラー現象に進化してくれるのだ。ちなみに“ネコチャン”というあまりにもあまりな名前は、我が家ぶっちぎりのボケ担当である母がつけたものだった。猫好きを自称するなら何故もう少しまともな名を思いつけなかったのだろう、彼女は。 「ネコチャン、ほんと元気だよねえ。もう超いい年のおじいちゃん猫でしょ。今年で十六歳とかそんくらいじゃなかったっけ?すごくない?」  ギャグとしか思えない写真ににやけが止まらない友人は、むくれる私の額の中心をつんつんと突っついてみせたのだった。 「まあ頑張りたまえよ。一生懸命撮り続けたら、いつかネコチャンも心開いて写真撮らせてくれるようになるかもしれないよ?なんだかんだ、十六年も一緒に育った仲なんでしょ?」
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