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とかなんとか騒いだものの。
残念ながら疲労困憊になって床に倒れるハメになったのは私の方だったという。いつものことながら、あのデブ猫のどのへんにこれほどの体力があるのか理解できない。犬と間違われるほどのサイズだというのに、そのすばしっこさはミニチュアピンシャーもかくやというほどなのだ。ただし、超速反応するのは嫌いなものから逃げる時と、ごはんの時と、可愛い子チャンに遭遇した時だけという現金ぶりだが。
「ち、畜生……ネコチャンめぇ……」
「姉ちゃん今日も敗北か、ご苦労さん」
「うっせぇわ……」
不憫に思ってか、小学生の弟がしゃがんでこちらを見下ろし、私の頭をなでなでしてくる。弟も当初はネコチャンの写真を撮ろうと躍起になっていた一人だが、私が毎日のように敗北し続けるのを見て早々に諦めたらしかった。私も、できれば諦めてしまいたい。――あのモフ毛が私を呼ぶからいけないというのに。
――しかもあいつ!逃げる理由が“カメラが嫌いだから”じゃなくて“追いかけてくる私をおちょくるのが楽しいから”なんだよな!あーもうムカつく!どうしたらギャフンと言わせてやれるんだよ!!
もはやぶーぶーと文句を言う気力もない。その当のネコチャンは、母の腕の中にちゃっかり収まって甘えた声を出している。あれはオヤツを強請る声だ。さっきあれだけ食べたくせにまだ食う気なのかと言いたい。運動したから腹が減ったと言わんばかりの態度だ。だったら逃げるなという話なのだが。
そう、しかしこの後。予想外のところで、ネコチャンの写真を撮る絶好の機会が巡ってくることになるのである。ピンポーン、とチャイムが鳴り、最近引っ越してきたマンションのお隣さんがご挨拶来たのだ。
汗だくで少々情けない顔にはなっているが、ご挨拶はしておいた方がいいだろう。私は母と弟、母に抱かれたままのネコチャンと共に玄関に向かっていったのだが。
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