ルリエの願い

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 黒き太陽が天地を照らし、破れていく天地は鳴動する。  遠い誰かの記憶……黒き凶風が吹き荒れる生命が死に絶えた大地、渇き滅んだ海、割れて崩れ暗黒の闇を覗かせる空。 (これは……一体……?)  地獄という言葉すら生温い程に、その世界は死に絶えていた……いや、死というものすら滅び去ったような……見ていて、心が締め付けられる景色がただ広がっている。  何をどうすればこのような景色になるのか……そして、ルリエの脳裏にふと、何かが浮かんだ。 (魔剣フェイレン……? 黒い影……?)  自分を呑み込んだ魔剣フェイレン、そこに宿っていた黒い影が浮かぶ……黒い影、魔物を生み出し、怨嗟を呼び起こす謎のもの。  自分の前に広がるこの景色、世界からは……それと同じ暗く深く、光すら見えないものが感じ取れた。  そして、自然と浮かぶ、ある言葉がルリエの口から、静かに漏れていた。 「全てを終わらせなければならない、それが私の……最後の歌姫の役目、最後の……」  自分でも何を言っているのかわからなかった。そしてその疑問を思案しようとした刹那、ルリエは現実世界に覚醒し……静かに、身体を起こした。  寝にくい白の敷布に横たわる身体、目に映る白い布天井、身体に伝わる硬さ……竜車の中、寝慣れた場所。 (私……あぁ、そうか……)  薄暗い中で上体を起こしてルリエは状況を整理しつつ、頭と身体の覚醒を促し始める。  魔剣フェイレンに呑まれて、ノゾミが助けてくれて……その後、倒れて動けなくなった自分達を迎えに来た仲間達が介抱し、迷惑をかけたと謝罪の言葉をかけて、そして意識を失った。  だが、彼らのやり取りは聴こえていた。自分の言葉に驚きつつも……受け入れてくれて、ノゾミが言うところの優しい、という事なのかもしれない。  自分の隣にはブランケットに包まるユーカが穏やかな表情で眠っている、自分の向かいにはアルトが座って安らかに眠り……小さな寝息を立てている。  どのくらい寝てたかはわからないが、一日以上……というのは感覚的にわかる。  全ての魔力を使い果たし、疲労困憊となって……そして、思い出せたものがあった。 (私は強くなる、誰かを……守る、為に)  そう思ってみたが、まだ何処かぎこちないなとルリエは自嘲の笑みを浮かべた。  父と母が託した願い、それを受けて自分が願ったもの……過酷な運命の中で芽生えて……心を凍らせてでも守ろうとして、ずっと、忘れてたもの。  生きる為に強くなる、忘れていても……本心が歪な形で出ていたのかもしれない。その為に、多くに迷惑をかけた事など、省みる点は多い。 (ノゾミは、わかっていたんだな……)   あなたは何故強くなろうとするのか、そうノゾミは問いかけて……旅をする中で、手合わせや生活の中、数多の出会いや戦いの中で教えようとしていた。  彼の強さの秘密は誰かの為に力を尽くす事、己を犠牲にして守ろうとする強い意思……優しさという名前の、強さ。  と、ルリエはノゾミがいない事に気がついて竜車内を見回し、マントを羽織って外へ飛び出し……そして直後に響くのは、熱風と雷撃の二重奏。
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