15.吸血鬼

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15.吸血鬼

15.吸血鬼  美子は法眼の電話を受けて再び法眼のマンションを訪ねた。  法眼は美子を居間に案内するとソファーに座らせた。 「国会図書館で新聞冊子を調べたのです。すると一人の女性が浮かびました」  法眼は立ち上がり、ファイルを持ってくるとテーブルの上に置いた。 「これを見てください」  法眼はソファーに深く腰を下ろした。  美子はそのファイルを開くと、大正時代の新聞のコピーが何枚も挟まれていた。新聞の記事の見出しには…… 『血液を抜かれた男性の遺体が発見さる』 『再び、帝都に吸血鬼現わる』 『被害者はついに五人へ』 『警察は全力で犯人逮捕へ』 『警察、犯人逮捕。犯人は三十代の女性』 『吸血女の裁判始まる』 「先生、この女性とマンホールの霊が関係あると?」  美子は当惑した表情で法眼を見た。  法眼はゆっくり頷いた。  そして、法眼は大正時代に猟奇事件を起こした女の話を始めた。  女の名前は今井イネ。事件当時三十二歳。今の富浜区東新国一丁目あたりに住んでいたらしいのです。  夫は運送業の荷降ろしの仕事をしていましたが、他界し、一人身になったイネの生活は困窮したようです。  やがてイネは病にかかり長く臥せるようになったようです。  ところが、周囲に住む男たちがイネをいじめるようになり、イネは男たちから逃れるように長屋を失踪したようです。  生死の境をさまよっていたイネは、男を襲い生き血を飲んだらしいのです。その後、生き血を求めて連続殺人事件を犯したのです。  元気になるため蛇の生き血を飲む人がいますよね。実験でも老齢マウスと若いマウスを手術で結合すると、老齢マウスは若いマウスの血液で若返るのが分かっているのです。イネも生き血を飲んで本当に病から開放されたのかも知れないのです。  やがて、巷で吸血鬼の噂が立って、警察も犯人逮捕に奔走したようです。  そして、最初の殺人から三ケ月後に今井イネは逮捕されましたが、すでに五人を殺していたのです。  イネは裁判で『神様が現れて貴方は十分私の期待にこたえたので、永遠の命を授ける。次の指示を待つように言った』と言っています。それが本当なら神ではなく悪魔ということですね」  美子は法眼の話に蒼白になった。  法眼は美子の表情を見て、話しを止めると席を立った。 「おぞましい事件の話を聞いて疲れたでしょう」  戻ってきた法眼はコーヒーカップを美子の前に置いた。 「美子さんはブラックでしたね。でも私は、疲れると甘い飲み物がほしくなる」  法眼はコーヒーカップにスティック状の砂糖を注ぐと一口飲んだ。  そして、イネの話を続けた。 「イネは刑の執行時に暴れて目隠しを外そうとしたようなんです。  心霊写真の白い帯のようなものが写っていたのは、目隠しだったのかもしれません。  刑が執行された時、「祟ってやる」と叫んだというのですが、絞首刑になった状態で言葉を発することはありえないと思うのです。恨みが直接立ち会った者の脳に響いたのかもしれませんね。だから、イネは死ぬ瞬間に悪霊になったのでしょう。  その後、イネをいじめた三人の男たちが謎の死を遂げたそうです。  そこでイネの祟りを恐れた人々が受刑者たちの無縁仏から別の場所に埋葬し、僧侶により悪霊封印の儀式が行われた。その封印がとけてイネが墓から蘇ったのだと思います」 「なぜ、封印がとけたのですか?」 「それが謎なんです」 「なぜイネはマンホールに現れたのですか?」  美子が身を乗り出した。 「悪霊が電磁波だという私の仮説なら、電磁波はコンクリートの管路や地面を貫通できないが、マンホールを繋ぐ管路の中を伝播することは可能なんです。そしてマンホールの蓋は鉄製で鍵穴があるから、鍵穴を貫通して地表に出ることができる。 ただし、イネが山田に憑りついていたのなら、山田の体を使って自由に移動もできますが」 「なぜ三人が殺害されたのでしょう?」 「もしかすると、イネをいじめていた三人は被害者の祖父たちだったのかも知れないですね」 「三件目の事件は手口が違います。爆発事件です」 「悪霊のエネルギーが増幅して凶暴になっているのかもしれないですね」  法眼がコーヒーカップをテーブルに置いた。 「悪霊エネルギーが増幅し凶暴になる?」  美子は呟いた。
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