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17.決意
17.決意
法眼が富浜署の捜査本部にいた美子の携帯に電話してきた。
須藤課長がその会話を聞いていた。
「捜査が進展しないから心霊研究家に相談ですか? 情報提供者で心霊研究家なんてあったかね? そんなに点を稼ぎたいのかな。まあ、女性だし、捜査一課にいるのは大変なんだろうがね」
須藤課長の言葉は棘のように美子に突き刺さった。
「須藤課長、女性という言葉は謹んでもらいたい。捜査をするのに男性も女性もない。前にも言ったはずだ」
須藤管理官は、須藤課長をたしなめるように言った。
美子は有馬管理官の前に進んだ。
「新しい情報かね?」
「心霊研究家・法眼先生とあったのです」
「君は物証が全てだという鉄則を忘れたのか? 私たちは、一般市民から情報をお聞きする。心霊研究家もあくまで一般市民の一人だ。心霊研究家の情報で捜査が左右されることは無い。ドラマとは違う。君が一番知っていることだろ?」
有馬管理官は諭すように言った。有馬管理官は美子の性格は良く知っていた。美子が警察官になった当時、上司だったこともある。
「私は殺人事件の捜査を何度も経験しましたが、今度の連続殺人事件は犯人の人間臭さがないと思うのです」
「犯人は人間ではないと言うのか?」
有馬管理官はゆっくりした口調で言った。
「いいえ、霊的嗜好の強い変質者による犯行だと思っています」
「霊的嗜好の強い変質者か?」
「はい、山田一郎が犯人の可能性が高いと思います」
「根拠は?」
「確かに山村卓也は大柄のため山田には殺害は困難と思われました。また、薄井一郎は爆破殺害され、山田には爆薬の知識もないということで被疑者から外されました。職場の聞き込みでは、うつ症状があり自殺するかもしれないと証言がありました。
しかし、私はもう一度、山田の自宅を捜査してノートを発見したんです。ノートには建設中の掘削工事で談合があったのではないかと疑っているという記述がありました。
しかも、証拠を掴んだら内部告発しようと書いてあったのです。そんな人が失踪したり自殺したりするでしょうか? 山田は内部告発しようとして、現場の誰かに闇に葬られ、精神を病んで霊言を得たと思い込み事件を起こしたような気がするのです。
山田は爆薬の知識はないことになっていますが、建設現場にいたのですから、爆薬を手に入れることもできたのではないでしょうか。
有馬管理官、若狭良一の遺体の傍で見つかった毛髪と山田のDNA鑑定をお願いします」
美子は有馬管理官に頭を下げた。
「わかった。山田のDNA鑑定の指示をしよう。今の推理は青木刑事なのか? それとも法眼という男なのかね?」
美子は、一瞬困った顔になり、すぐに「もちろん私です」と言った。
「須藤課長、青木刑事に中山刑事をつけてくれ」
有馬管理官が須藤課長に言った。
中山刑事はガッツポーズを取った。
「中山、青木刑事が美人だからって、骨抜きにされるなよ」
須藤課長は中山刑事にハッパをかけた。
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