18.法眼と中山刑事

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18.法眼と中山刑事

18.法眼と中山刑事  美子は中山刑事と法眼のマンションを訪ねた。   事件解決には法眼の協力が必要だ。そのためには、一緒に捜査する中山刑事に法眼の考えを知ってもらう必要があると思った。  法眼は事前に中山刑事と訪問することを聞いていたので、ASS放送の情報番組で着用していた小豆色の服、銀髪の鬘を被って応対した。中山刑事は居間のソファーに座ると、自己紹介も早々に法眼に言った。  「貴方は青木刑事とどんな関係なんです?」  中山刑事は法眼の顔を見て唐突に言った。まるで、自分の恋人の男友達に詰問するような口調だった。 「私は、青木刑事からマンホール事件の協力依頼されて手伝っています」 「本当にそれだけですか?」  中山刑事の口調が少し穏やかになった。 「何か誤解されているようでね。確かに青木刑事は素敵な人ですね」 美子は法眼の以外な言葉に心臓が弾んで顔が赤くなりそうになった。 「僕は自分の目で見たものしか信用しない。青木刑事と一緒に捜査することになったので来ただけです」  中山刑事は口を強く結んだ。 「見たものだけを信じる……当然だと思います。私も初めてお会いする方の話は慎重にお聞きするようにしています。……あなたは空気の存在や、あなたが使っている携帯電話の電波の存在を信じますね?」  法眼はいろいろな人の相談を受けてきたから、その中には法眼を信用しない人もいるのをよく知っている。そんな時は相手が同意する質問を先にしてから反論することにしていた。  「それは、存在します」  中山刑事は頷いた。 「でも、見えないでしょ?」  法眼の口元が緩んだ。美子は中山刑事の隣に座り二人の会話を楽しんだ。 「それは……」  中山刑事は動揺して目が左右に動いている。 「電子レンジが食品を温めるのは?」 「それは、電子レンジの中で食品の水分が電磁波で振動されるからです」 「なるほど、電磁波が物体に影響を与えることを認めるわけですね?」 「……電子レンジと悪霊と何の関係があるのですか? 悪霊は電波と同じものだというのですか?」  中山刑事はむきになって言った。 「そうです。悪霊の正体はある種の電波ではないかと思っています。正確にいうと、電波とは三百万メガヘルツ以下の電磁波のことです。悪霊の電磁波が電波の範疇なのか、赤外線・紫外線・放射線のように高い周波数なのかはわかりません」  美子は法眼の話し方が自分に説明した時と同じだと思った。美子は同じ話を何人の人に話してきたのだろうと想像した。  中山刑事は口をへの字にして強く結んだまま聞いている。 「人間は考えている時、脳から微弱な電波(電磁波)を発しています。  脳波を解析して画像化する研究が行われています。人を見た時は人のような影の画像を、文字を読んでいる時は文字のような影の画像を作るところまで研究は進んでいます。  これは脳波と画像再生に関する研究論文です」  法眼は二人に論文の切り抜きを示した。 「ここまで研究が進んでいるとは思わなかったわ」  美子は論文の写真を見てビックリした。 「もし亡くなった人の思いが電磁波として、この世界に存在することもあるとしたらどうですか? 音声や画像データはDVDなどの記録媒体に保存されますね。ならば、何かの媒体にデータ、すなわち怨念が記録されると思いませんか?」 「悪霊が電波だというのは飛躍がありすぎますよ」  中山刑事はやはり首を縦に振らない。 「被害者の脳や眼が変質していたのは何故なのです」  中山刑事が逆に質問した。 「イネの怨念が電磁波となって襲ったからではないかと思っています」 「電子レンジの電磁波のようにですか?」  中山刑事はありえないというそぶりをした。  法眼は中山刑事の態度にため息をつくと立ち上がって、二人を別室のドアの前に導いた。 「中山刑事。ドアを開けてください」  法眼が言った。  中山刑事がドアを開けると、部屋の広さは八畳ほどだが、暗くて中の様子はわからない。  法眼はドアの傍にある室内灯のスイッチを入れた。 「え!」  美子は驚きの声を上げた。壁一面に無数の心霊写真が貼ってある。美子はその写真を見つめて、息が苦しくなった。 「デジタルカメラが主流の現代は偽造写真が多いのも事実です。しかし、ここにある写真は現在の科学では偽造だと証明できない写真ばかりです。  ポラロイド写真も偽造は難しい。この写真は女性が亡くなる瞬間に撮られたものです。  女性の口から霧のようなものが流れ出している。この時立ち会った神父、医者もこの霧状のものを見ています。しかもこの写真は七十年前のものです」  法眼は中山刑事の反応を見るように顔色をうかがっている。 「偽造と証明できないから霊は存在するというのですか?」  中山刑事は反論した。 「霊が存在しないと証明するのに全ての事象を証明する必要はないのです。霊がいないと否定できない事例を一つ見つけるだけでいいのです」 「それはへりくつだ」  中山刑事が声を抗えた。
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