20.武器

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20.武器

 20. 武器  法眼は自宅のデスクでA4の印刷用紙に悪霊と対峙する武器のアイデアを書き留めることにした。  悪霊が電磁波となって移動するなら、電磁波を乱せば悪霊は移動できなくなり、消滅させることもできるかもしれない。  太平洋戦争では、無線通信を妨害するために、強力な電波を出したという記述もある。持ち運びができて強力な電磁波を発生させる方法は?……スタンガンを改造するのはどうだろうか? 強力な電磁波とするために電圧を上げ、操作しやすいように円筒状にする。  電磁波を遮断するには鉛の板がいい。悪霊封印の言葉を書けば効果があるかもしれない。  マンホールに落ちて酸欠死したという記事を込んだことがある。マンホールの中は無酸素の場所もあるということだ。とすると防護服には防水で酸素ボンベも必要になる……  灯のないマンホール内で、懐中電灯を持って汚水の中を歩くのは危険だな。両手はフリーであった方がいい。ヘッドライトにするか。  法眼はA4用紙にラフな防護服の絵を描き必要なツールをつけ加えていった。  出来上がったイメージ図は感染防止の防護服のようなものになった。  数日後、法眼から準備ができたと美子に連絡してきた。  早速、美子と中山刑事が法眼のマンションに集まった。 「では、イネと戦うための武器を見てください」   法眼はアルミの箱を持ってくると蓋を開けた。 「これはポラロイドカメラです。霊の存在を捉えることができるでしょう。紐をつけたので首からぶら下げることもできる」 「心霊写真は私でも撮れますか?」  美子が聞いた。 「ええ、ただし、霊が映るとは限らない。だから、一般のポラロイドカメラは十枚しか撮影できませんが、これは五十枚撮影できるよう改造してあります。マンホール内のガスや湿気の影響を受けないよう本体は防水にしてあります」   法眼は二人が頷くと、次の道具を取り出した。 「これは、トランプのカードのように見えるが悪霊封じのお札です。鉛の板に呪文を刻んであります。悪霊が八十年以上現れなかった事実から、悪霊封じのお札は効果があったと思います。鉛は電磁波を遮断するから悪霊が電磁エネルギーならこの札を破ることはできないはずです」 「呪文に効果があると?」  美子が言った。 「お二人は墓前で合掌し経を唱えたことはありませんか? 無心で信じることです」  美子はその言葉に祖父の墓前で経を上げた時のことを思い出した。 「これは高電圧対応の科学防護服です。管路の中はガスが発生している場所もあるかもしれない。  フルヘルメットにはヘッドライトがついています。これで、両手が自由になる。フルヘルメットは簡単に外すこともできます。  腕にはガス探知センサーを付けました。マンホール内はメタンガス等発生している場合がありますから。  背中には小型ボンベを取り付けました。一般のボンベは重すぎるので、このボンベは軽量になっています。ただし、30分しか持たない。あくまで無酸素となった場合の緊急用です。  これは蛍光マジック。ローテクだが効果があるでしょう。管路は我々には迷路と同じですからね。地下ではGPSも使えない。だから道に迷わないように管路の壁に印をつける。  最後にこれが悪霊と対決するための電磁棒です。この円筒状の上部二極間で五十万ボルトが放電する。スタンガンと同じ原理です。  ただし、スタンガンは単一の高周波です。スタンガンは筋肉を麻痺させ人の行動を奪うことが目的ですが、この電磁棒は悪霊の電磁エネルギーを乱し破壊することです。電磁棒の外皮はケブラー繊維を使用しました。警棒の代わりにもなりますよ」 「まるで長い懐中電灯みたいだな。長さは30センチくらいですね」  中山刑事は説明を遮った。  「確かに、外形は似てますね。周波数はホワイトノイズ、つまり無限の周波数を発振するようになっています。もちろん無限の周波数は理論上の話ですよ。  汚水の中で高電圧を使うと感電死する。だから、防護服は高電圧耐用になっています。電磁棒を使う時は要注意ですよ。  それから、万が一、イネに襲われたら、この電磁棒を自分に刺して自死してください」 「自死? ……自殺しろと言うのですか?」 中山刑事は驚いて言った。 「そうです。悪霊は生体がほしいのです。もし襲われたら、自死することで体を奪われないで済むはずです。だから、電磁棒にはタイマをセットしました。電磁棒を体に刺したままにすると、1分後に再び放電し、心臓を蘇らせることができるはずです」 「……でも蘇生しなかったら?」  美子が言った。 「その時は、イネの操り人形にならなかったと諦めてください」 法眼が説明を終えた。  美子と中山刑事は黙ってしまった。悪霊に負けそうになったら自死しろとは、極論過ぎるからだ。   「試したものはどれですか?」  美子は法眼の話が終わるのを待っていたように言った。 「ありません。全て、今回使用するものばかりです」  法眼は美子、中山刑事の顔を見てキッパリと言った。 「マンホールの中にある墓をどうやって探すのですか?」  中山刑事が言った。  法眼は管路図を広げた。 「マンホールの管路は川に例えると、本流と支流のような構造になっています。  各ビルからの汚水は自然勾配(管路に傾きをつけることで、浅い管路から深い管路に汚水が流れる)で、細い管路を通して集められ、太い管路に合流し、太い管路はさらに太い管路に合流し、最後に本流の管路に合流して汚水処理場を介して川に流れるわけです。そして、途中には保全用のマンホールがあります。  山田が消えたマンホールの先のどこかにいるとしたら、それは人が通れるほど大きくなくてはいけない。だから、太い管路、本流の管路を調べる必要があります。  では地図を見てもらいましょう。地図は前にも見てもらいましたね。  今回、この富浜公園のマンホールから管路に入ることにしました。この管路は比較的大きな管路で、さらに太い管路に続いています。事件のあったマンホールは他の太い管路のマンホールで起きていますが繋がっているのです。  次に管路の中をどうやって進むかです。  図の青い線は現在確認できる管路で、赤い線は廃止となった管路で途中から地図から抹消されています。  まず、青い管路を通り、赤い管路に入る。管路が地図で消えたところからで、私が霊視してポラロイド写真を取り、方向を指示します」 「管路の長さはどの位ですか?」  中山刑事が聞いた。 「この公園のマンホールから海岸の排水口まで直線で二キロです。しかし、管路は地下で複雑に交差しているので四キロ以上になりますね」 「すると歩いて1時間位?」  美子が言った。 「いや、足元は汚水で覆われていて歩くのが困難だし、使われていない管路は崩れて通行できないところもあるかもしれない。だから2時間以上かかるかもしれない。もし、迷路に入れば永久に彷徨うことになりますからね」  法眼の「彷徨」と言う言葉を聞いて、美子と中山刑事は身震いした。
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