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23.巨大ゴキブリの来襲
23.巨大ゴキブリの来襲
法眼は走り続けるのを止めた。
振り返ると、背後から追ってきた鼠の集団の水音が聞えなくなった。背後は不気味なほど静かになった。法眼は息を切らしながら、美子の手を離した。
「助かったの? いや鼠に襲われ、中山刑事のように死ぬはずだった。本当に追っ手をふりきったの? イネは一人一人殺すつもりなのよ。 私たちをなぶり殺しにするつもりなのだわ、そうでしょ? 先生」
美子が法眼を見て言った。
法眼は頭を上にあげて、ヘッドライトを壁に当てた。
美子もそのライトに照らされた先にある大群を見て息を呑んだ。
無数のゴキブリが天井を埋め尽くし、ライトに照らされたゴキブリは黄土色をしていた。5cmほどの巨大なゴキブリはまるで、暗黒の世界に生息し脱色して別の生き物のようだと美子は思った。天井の壁に張り付いたゴキブリは羽音を立て始めた。
美子はその音はスクランブル(緊急)発進を待っている戦闘機のようだと思った。この音が揃った時、私たちは襲われる、美子は呟いた。
美子は、ゴキブリの噛む力は人間の50倍あると聞いたことがあった。
ゴキブリに噛まれると、傷口から細菌が体内に入り、アナフィラキシーショック(全身性のアレルギーショックにより血圧低下、意識障害、呼吸器障害、神経障害を起こし短時間に激しい病状が現れる状態)で命が危険になるとも聞いていた。
ゴキブリの大群は私たちの防護服を何なく食い破るに違いない。そうなれば、私たちは短時間でアナフィラキーショックで死んでしまう。
美子は、法眼を見た。その時、法眼の腕のガス探知マーカーが危険を知らせる色に変わっているのに気づいた。
「先生、探知マーカが!」
「美子さん 潜って! ガス爆発でゴキブリを焼き殺してやる」
法眼は美子を汚水の中に倒すと、法眼も汚水に飛び込んだ。
法眼は汚水の中から電磁棒を突き出してスイッチを入れた。電磁棒の二つの電極間で稲妻が走った。
瞬間、管路内は火炎で包まれた。火炎は生き物のようにゴーと唸り声を上げた。その炎は汚水の水面を激しく揺らした。火炎は汚水の上を猛烈なスピードで通り過ぎた。
汚水から顔を上げた法眼、美子は顔を見合わせた。汚水の水面は無数のゴキブリの死骸が埋め尽くしていた。
「よし、墓を探すぞ!」
法眼が汚水から顔を出した美子の手を取った。
「負けないわ」
美子は自分をふるいたたせた。
「悪霊は人の孤独と怖れに付け込んで、とり憑こうとするのです」
法眼が言った。
再び、管路は交差した。
「今度は美子さんが写真を撮ってください。般若心経を唱えてシャッターを押してください」
美子が二方向に別れた管路にポラロイドを向けてシャッターを切った。美子はポラロイド写真を見た。
「何も写っていないわ」
「また撮って!」
法眼が言った。
美子が再びシャッターを押した。ポラロイドから印画紙が出てくる。
「早く現像して!」美子は焦った。
「あ! 右側です。写真に白い影があります」
「見せてくれ! 間違いない。行きましょう」
そう言った法眼の声がかき消された。
「水よ!」
美子は叫んだが一瞬にして、大量の水が管路に押し寄せてきた。
排水口に川の水が押し寄せ管路を逆流してきたのだ。
美子と法眼は近くのマンホールまで走りマンホールの手すりを登ろうとした。だが、水深は腰の深さになり足が思うように進まない。
美子はやっとマンホールの手すりに着いた。
「届かない」
美子が悲鳴を上げた。足元の七段ぐらいの手すりが崩れていたからだ。水深はすでに二人の胸の高さまで来ている。
「私の肩に乗って」
法眼が叫んだ。
美子が法眼の肩に乗ったが、手すりまで三十センチ届かない。
「やっぱり届かない。無理だわ」
美子が叫んだ。
「飛ぶんだ!」
法眼が怒鳴った。
美子は法眼の肩の上でジャンプした。
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