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4. 消えたマンホール
4. 消えたマンホール
美子は被害者が別のマンホールで殺害され、発見されたマンホールに流されたのではないかと考え水道局に行った。
応対した下水道局員は30代の男性だった。
「下水マンホールについて教えていただきたいのですが?」
「下水・汚水マンホールの内径は60センチと75センチが一般的です。
マンホールの蓋は大きく分けて2種類あり鉄でできています。一つは片方に蝶番がついていて、蓋の片側を引き上げるタイプ。一つは両側に穴があり、蓋をそのまま引き上げるタイプです。増水でマンホールの蓋が浮かび人が落下する事故などがあり、蝶番式のものが多くなりました」
「事件あった蓋はどちらですか?」
「蝶番式です」
「蓋を外し、その上をカモフラージュして人を落とすことはできないですね」
「そうですね、無理だと思います。マンホールの蓋の厚みは5センチ以上ありますから開いていればわかりますよ」
「では、下水・汚水はどのようにして流すのですか」
「下水・汚水は自然勾配で流しています」
「自然勾配?」
「そうです。マンホールの深さを少しずつ深くして管路に傾斜をつけて、下水・汚水を流します。ただし、何10メートルもマンホールを掘る事はできません。このため、ある程度深くなると一つのマンホールの中で、一方の深い管路からの汚水をくみ上げ、別の浅い管路に流すようにしています」
「中継用マンホールがあるというわけですね。殺人現場が別のマンホールということは考えられませんか?」
「可能性はあります。事件のあったマンホールの水位が十分あれば流されることもあるでしょう。ただし、今お話したマンホールの先に行くことはないと思います」
「事件のあったマンホールの水位を調べられませんか」
美子は、若狭良一が亡くなった時刻とマンホール点検員が発見した時刻を水道局員に教えた。
「少々お待ちください。管理センターに問い合わせてみます」
水道局員は内線電話で確認してから、美子に言った。
「確かに、被害者が亡くなった翌日に水位が上がっていますね。被害者が発見された時刻は20センチです」
美子は被害者が流された可能性があると思った。被害者は中継マンホールを通過することができない。だから、発見されたマンホールとその周辺にある中継マンホール間を調べればよいことになる。捜索範囲が絞られたと思った。
「マンホールの管路図を見せてください」
水道局員は美子を管路図の保管してある部屋に案内すると、管路図の保管してある複数の引き出しの一つから、一枚を取り出してテーブルに広げた。
「これが汚水・下水の管路図です」
「よくわからないわ」
美子は首を傾げた。二重線と番地が書いてある白地図に○印しか書いてなかった。
「○はマンホールで番号は管理番号です。線は管路で、横に書いてある数字は管路の直径です」
「人が通れるような大きな管路は少ないのですね」
直径30から60センチ程度の管路が多かった。
「事件があったマンホールの管路図はありますか?」
「ええと……住所は? ああ! あのメイン道路でしたね?」
水道局員は管路図を探すと、1枚の管路図を美子に示した。
「これが、現場となったマンホールはどこですか?」
「ここですね」
水道局員はマンホールの1つを指を指した。
「マンホールと中継マンホールまでの経路を知りたいのですが?」
水道局員は数10枚の管路図を美子に差し出した。
数10枚の管路図のどこかに犯行現場があると思った。
その時、美子は眉間に皺を寄せた。
……この管路図、管路が途中から消えている?
美子は管路図の点線となった部分を指差した。
「これは、再開発で無くなった部分です」
「どういう事ですか?」
「再開発で埋め立てられたのです」
「消えたマンホールがあるという事ですか?」
「そういうことです。ただ、マンホールも管路も地下に残ってはいますが」
「地下に消えたマンホールがあるのですね?」
美子は落胆した。美子は事件現場が被害者の発見されたマンホールと中継用マンホール間にあると考えていた。
マンホールの管路は地下で縦横に配管されているが、捜査は可能だと考えていた。
ところが、消えたマンホールが存在することで、捜査範囲は不透明になったと思った。美子は水道局員に一礼して水道局を後にした。
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