5. 第2のマンホール事件

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5. 第2のマンホール事件

5. 第2のマンホール事件  捜査本部が立ち上がってから2週間が経過していた。  刑事たちは懸命に捜査をしていたが、新しい情報は得られない。 「ご苦労だったな」  有馬管理官は腕時計を見ると、会議室に戻ってきた刑事たちに声をかけた。 「管理官、こんなに捜査しているのに何も出てこないなんて変ですよ」  いつもは愚痴を言わない刑事たちが言った。  有馬管理官は何も言わず小さく頷いた。  その時、電話が鳴って、傍にいた刑事が電話を取った。 「何! またマンホールの底から遺体だって?」  受話器を握った刑事の顔から血の気が引いた。  捜査を終えて会議室に戻っていた刑事たちはその声に耳を尖らせた。 「おい、俺が変わる」  須藤課長が刑事の受話器を取った。 「場所は何処だ。富浜二丁目三番地のマンホールだな」  「管理官、またマンホールの底で死体が発見されたそうです。若狭良一が発見されたマンホールから五百メートルしか離れていません」  有馬管理官は無言で頷いた。 「今度こそ星を捕まえてやる。みんな行くぞ」  須藤課長の鼻息は荒かった。  会議室に刑事たちが40人集まった。  被害者は若狭良一が発見されたマンホールから500メートル離れたメイン道路沿いのマンホールで発見された。マンホールの蓋は閉まっており、被害者はうつ伏せの状態だった。  被害者の名前は山村卓也。35歳。富浜区三丁目のセブンプレゼンツ株式会社の社員。身長185センチ。体重80キロ。死亡推定時間は午後七時前後。死因と思われる外傷はなく、財布に現金が残っていた。目撃者も現れなかった。 「山村卓也の司法解剖結果は出たのか?」  有馬管理官が言った。 「山村卓也の脳幹、瞳の組織が、変質していました。若狭良一と同じ状態だそうです」 「同一犯の可能性が高くなったな。若狭良一の事件から三週間経つぞ。まだ凶器は分からないのか?」 「はい」  鑑識の声は小さくなった。   美子が挙手して立ち上がった。 「二件の現場状況は非常に似ています。殺害現場が別で、マンホール間の管路を流されたという仮説が有力になったと思います。現場が別なら目撃者がいないこと。防犯カメラに被害者が映っていなかったこと。マンホールの蓋が閉まっていたことも頷けます」  美子が有馬管理官の顔を見て言った。 「水道局の局員から、現場のマンホールが発見される前に水位が上がったことを確認しました。被害者が別のマンホールで殺害され、発見現場のマンホールに流された可能性があります。水道局で管路図を入手し、捜索が必要と思われるマンホールを現在調べています。  20のマンホールを調査しましたが、まだ管路の壁面に落下時の被害者の痕跡、血痕は発見できていません。これが水道局からコピーした管路図です。印のついたマンホールは調査済みです」  美子は、コピーした管路図を有馬管理官に渡そうとした。 「時間の無駄ですよ。前にも報告しましたが、富浜署員が調べています」  須藤課長は、有馬管理官に言った。 「マンホールの壁面に被害者が落下した時の跡や血痕がなかったのだな」  有馬管理官が須藤課長に念を押した。  須藤課長は詳しい調査内容を署員から聞いていないようだった。慌てて、刑事を席に呼ぶと小声で確認した。 「エーエー。捜査はマンホールの蓋にこじ開けられた後がないか確認しています」 「何!?」  有馬管理官は横を向くと同席していた須藤課長の顔を見た。 「マンホールを開けるには特別な鍵が必要です。ですから、鍵無しで開けると鍵の周辺に傷がつくと思われます」  須藤課長は弁解した。 「待ってくれ! マンホールの蓋を開けて、マンホール内を調べていないのか? 犯人が鍵を持っている可能性もあるし、慎重にやれば傷をつけずにマンホールの蓋を開けることも可能ではないのか?」  須藤課長は慌ててハンカチを取り出すと額をぬぐった。 「えー、署員が調べましたから……」 「もう一度言うぞ。マンホールの内部を調べたのか?」 「いえ、まだです」  須藤課長は肩を落とした。 「青木刑事からリストをもらえ。至急調査するように」  有馬管理官は語気を強めて須藤課長に言った。 「不特定多数を狙った犯行の可能性がある。事件前後で富浜区から失踪した者がいないか調べてくれ。二件のマンホール事件が起きたことで市民は不安を抱いている。富浜署員は市中の警戒を強化してくれ」  有馬管理官が言った。
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