6.霊能者法眼

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6.霊能者法眼

6.霊能者法眼  ASS放送では昼の情報番組が放送されていた。 「それでは次のニュースです。マンホール連続殺人事件が発生して三週間が過ぎましたが、捜査は進展していません。住民から不安の声が上がっています。それでは現地から実況おねがいします」 「はい、こちらは富浜駅近くのマンホール事件のあった現場です。周囲には高層ビルや、コンビニ、珈琲館とかあるんですけど、人影はいつもより少ないそうです。皆さんやはり恐れているようです。現場からは以上です」  中年のレポーターがいった。  司会者は二人の被害者の写真を見ながら、女性アナウンサーに事件の経緯を説明するように促した。女性アナウンサーが原稿を読み上げる。  司会者は女性アナウンサーが原稿を読み終わると、 「本日は、コメンテーターに警察OBの山村一力さん、心霊研究家の法眼さんにおいでいただいております。さっそく、事件についてお二人にご意見をお聞きしたいと思います。山村さん、今回の事件をどう推理なさいますか?」  三台のカメラが山村の顔を捉える。赤ランプが点灯しているカメラが放送中のカメラだ。 「これは、マンホールを使ったテロと思われます」 「テロですか?」  司会者がビックリした様子で言う。カメラが司会者の眉間に皺をよせた顔を映す。カメラはすぐ山村の顔に切り替わった。 「そうです。テロの可能性が高い。金銭のもつれや怨恨による事件ではない。金銭や怨恨なら警察が懸命に捜査しているのに何も出てこないことなど私の経験ではなかった。これは不特定多数を狙った犯行だと考えられる。証拠を残さないことから事前に十分計画されている。  狭いマンホールに遺体が遺棄されていたことから、複数の犯人、その中に汚水管路に詳しい者が含まれると考えられる。  犯人たちの目的は事件を通して社会を不安に与えることです。連日ニュースで取り上げられていますから、目的は達せられたと言っていいでしょう。警察の警備も厳しくなっているので、さらに犯行を続けるかは疑問です。  警察は水道局や工事の関係者を調査すべきです」  山村はカメラと机の原稿に交互に目を移しながら言った。 「山村さんにはまたお聞きします。では心霊研究家の法眼さんは今回の事件について、どうお考えですか?」  法眼は山村が話をしている間、瞑想しているように目を瞑ったまま微動もしなかった。  法眼は三十代前半。長身で細身の体を、学ランのように襟の立ったあずき色のスーツを着ている。銀髪でオールバックは肩まで伸びている。 法眼は、深く深呼吸をしてから目を開けた。そして、険しい表情で赤ランプの点灯したカメラに視線を合わせると、諭すような口調で言った。 「私は、遺体が発見されたニュース映像を見た時、マンホールの蓋に女性の霊が見えたのです。悪霊ではないでしょうか」  法眼はそう言うと眉を寄せ、司会者の方向をみて軽く咳払いをした。  司会者が驚きの反応をして再び質問するのを待った。事前にリハーサルをしていた。 「悪霊? テロではなくて悪霊ですか? これはまた大変な話ですね」  司会者がカメラに向かってさらに大きな驚きの表情をした。声音が少し震えている。もちろん演技だ。 「悪霊の正体はわかりませんが、事件は続くのではと危惧しています」  法眼はカメラの先にいる視聴者に話すよう言った。法眼の顔がアップになり眉間に皺を寄せた顔がテレビ画面を覆った。 「現代に悪霊なんて存在しない!」  山村が大声で反論しながら法眼に指を差した。 「指を指さないでください。失礼な人だ。悪霊はいます。人間は誰でも悪霊になる可能性がある。猟奇事件はみな悪霊の仕業だ」 「バカバカしい」 「貴方の肩に霊が見える」  法眼は挑発するように言った。 「いい加減なことを言うな。これはテロ事件だ! 間違いない」  山村がテーブルを叩いて断言した。 「貴方の肩についている霊は、貴方が担当した事件関係者かな?」  法眼は山村が興奮する姿を楽しむように言った。 「俺を馬鹿にしているのか?」  山村の声は益々大きくなった。カメラは顎を上げて紅潮した山村の顔と、口元を緩めた法眼の顔を交互に映した。
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