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9.犯行現場
9.犯行現場
「マンホールの調査はどうなった」
刑事が『はい』と言って立ち上がった。声に覇気がある。収穫があった証だ。
「若狭良一の殺害現場が判明しました。現場は富浜区三丁目三番地のマンホールです。富浜区はまだ開発中で広大な空き地があり、その中の一つです」
「よく調べたな。周囲が空き地なら、目撃者がいなかったことも、防犯カメラに被害者・不審者が映っていなかったことも頷けるな。問題は、何故若狭良一がABCビルを出てその空き地に行ったのかということだ? 現場が分かったのだ。もう一度調、目撃者、防犯カメラを洗い直してくれ」
有馬管理官は会議室の署員に向かって言った。
やがて、山村卓也の殺人現場も分かった。やはり空き地のマンホールだった。
しかし、二人の被害者が空き地のマンホールに向かった理由は分からなかった。
また、元掘削作業員山田の足取りも判明しなかった。
会議室は沈黙が覆っていた。
須藤課長は、隣に座った管理官の横顔と、刑事たちの顔を交互に眺めながら、誰かが発言しないのかと焦っていた。
「小柄な山田に百八十センチの山村卓也の殺害は困難だと思います。山田を被疑者から外したらどうですか」
須藤課長が言った。
有馬管理官が刑事たちに意見を求めた。
刑事たちは須藤課長と同じ見解だった。
有馬管理官は元建設作業員山田を被疑者から外すと宣言した。
会議室は新しい物証も目撃者の報告もなく、再び重苦しい空気に覆われた。
美子が挙手して立ち上がった。
「この事件は無差別殺人なのでしょうか? テロなら、犯行声明や、身代金要求があってもいいはずですがありません。
また、三人に怨恨を持つ者の犯行として捜査していますが、犯人らしき人物が誰一人浮かばないのは、今までの事件ではありませんでした。
そこで、三人の家族に恨みを持つ者の犯行として、捜査範囲を広げるのはどうでしょうか」
美子に根拠などなかった。有馬管理官はすぐに根拠は? と美子に質問するはずだ。質問されたら、ありません。全ての可能性を排除したいと答えようと美子は思った。
「何て荒唐無稽な話しだ。そんなの推理といえるのか? まるで三流の刑事ドラマだ。いやそれ以下だよ。また、お得意の女性の感かね?」
須藤課長は呆れたような顔をして、会議室の刑事たちに同意を求める仕草をした。
だが、捜査が行き詰っていたから誰も同調しない。
「須藤課長、女性の感という言葉は謹んでくれ。捜査をするのに男性も女性もない。現在捜査は行き詰っている。考えられる事は全て潰していこう。加納、山下、二人は三人の家族を調べてくれ」
有馬管理官が言った。
美子には有馬管理官の言葉は意外だった。美子の警察学校時代の上司が、有馬管理官だった。
有馬管理官が『上司というのは部下に指示を出し続けることが必要だ』と言った事を思い出した。捜査が行き詰った時、トップが指示を出さなければ、刑事たちは動くことができないのだ。
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