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この聞きなれない足音が近づいて来るのに気が付き、饅頭屋の女店主は顔を上げた。女店主は息を飲んだ。同じ女ではあるが魅入るほどの美しい顔に釘付けになった。
「…饅頭を二ついただけますか」
女の謙虚に注文する声を聞いたが、女店主は時を忘れて見ていた。女が首を傾げ、注文されたことに気が付き、慌てて準備をした。手慣れた手つきで包む、女は小銭を出すと饅頭を受け取った。女店主は女が去ったあとに、向かいにいる少女から目線を避けるため、饅頭へと視線を落とす。―あの女の子の家は昨年、父親が病気で亡くなった家の子で、前はよく饅頭を姉妹で買いに来ていた。きっと懐かしんで来ているのだろう。しかし、わたしも裕福じゃないから、あげられない。一度、やってしまったら続けなくてはいけない。だから、こうやっていつでも買えるようにしてあげることしかできない。いつか誰かが助けてくれるでしょう―そう、毎日、自分に言い聞かせていた。
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