緊張ジャンキー

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 オフだというのに、午後の談話室はいつになくごった返していた。  皆、各々スマフォやタブレットを手にしている。また電子機器が得意な連中が、部屋のテレビをネットへ接続しているところだった。 「生放送あんの?」 「○○サイトのライブ動画配信やて」 「昔は抽選会、朝やってんで」 「ドラフトとかもそうだろ、最近は夕方にやって観客呼ぶし」  口々に皆、抽選会を話題にし、エアコンの効いた部屋の温度が上昇しているようだった。  それを横目で見ながら穂高は自室に向かった。抽選結果が気にならないわけではないが、あとで確認すれば良い。皆がここに集まっているのは好都合だ。久々に恋人に電話しようと考えながら、寮の階段をほとんど駆け上った。  電話しながら爪の手入れをしていた穂高は、ネイルクリームがないことに気付いた。  そういえば相棒に貸したままだった。終話後、祭りの後の倦怠感漂う食堂で言おうと思っていたら、その姿がない。あれ、と首を傾げた穂高は、近くに居た後輩捕手の三河を捕まえた。 「ケント、何処にいるか知ってる?」 「ああ、談話室で果ててます」 「え? なんで?」  と聞き返すと、周囲の人間が一様にざっと振り返る。おや? と思っていると、知らないのかと驚いた様子のミカワは首を横に振った。 「俺の口からは言えません」 「…そんなに?」 「はい、そんなにっす」  周りの連中も何とも言えない表情で深く頷くのでそれ以上は聞けず、穂高は談話室へと足を運んだ。
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