緊張ジャンキー

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「野球選手にとって一番重要なことは、野球が好きかどうかだ」  とは、正捕手に定着した聖さんの談だ。 「どう考えたって厳しい世界だ。才能だけでこんな生活、続けられるもんじゃない。結局、好きかどうかなんだよ」  だそうだ。現実主義のキャッチャーにしては意外にもロマンチシズム溢れた意見で、穂高もちょっとびっくりしたものだ。が、確かに周囲を見渡せば、どうやっても野球に人生を投資した連中ばかりで、それ以上でもそれ以外でもなかった。 「毎日練習して、試合やってて、明日も明後日も明明後日も野球やるってのに、オフに野球見るんだもんな」 「どったの?」  訝しげなまっちゃんに、いやなんでも、と応えながら穂高は座り直した。  決戦の日、同期を中心にチームメイトがケントの部屋に集合していた。  テレビには陽が傾きかけた甲子園の空が映っている。大会5日目第四試合、大一番を控えて両チームはキャッチボールを始めていた。 「これからってことは、日没までかかるだろ。線審っていつからはいんの?」 「17時とかでしたっけ?」 「暗さによると思うけどな」 「雨の日とか、朝からいてはりますよ」 「そういや去年、○○と△△の試合、すげー雨だったな!」 「1時間も中断したんすよー」 「俺んとき、降雨ノーゲームになったぞ」 「それ、しかも延長しませんでした?」  中継映像に三々五々、声が上がるが、一様にそこはかとなく緊張している。ケントのように直接的な関わりがある人間は他には居ないが、そこは一度は通った道で、数年前の自分たちに置き換えては思い出話にも花が咲く。 「…ケント、息してる?」  岸本の声に、ケントが首を振った。酸素マスクとか準備しときゃよかったか? と呆れる祐輔に頷きながら、ミカワが麦茶のペットボトルを渡していた。  テレビに映る各チームの選手と戦歴紹介と、センバツ決勝までの春の映像に皆の嘆息が重なった。見事なものだ。 「なんか、最近の高校生ってすごいっすね…」 「なに言ってんだ、3年前はおまえも高校生だったやないか」 「でもなんか、こんなすごくなかったっすよ」 「うお、やべ、緊張してきた」 「自分で投げる方が、なんぼかマシやなー」 「ああ、それは思います!」  ようやく画面が切り替わり、ダッグアウト前に整列するナインが映る。見慣れたユニフォームに全員が一瞬、口を閉じた。穂高も数年前、この場所でこのユニフォームと対戦した。懐かしいという感慨以前に、来たな、と思った。暴発しそうな緊張と興奮に、グラウンド全体が浮き上がって見えた。  四人の審判がホームベース後方に並ぶ。両チームのナインが瞬時、腰を落とし、キャプテンの号令と共に駆け出す。綺麗な二列のラインが出来て、36人の球児が一斉に礼をして、  試合が、始まった。
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