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大方の予想を裏切って、両チームの先発はエースではなかった。
互いに甲子園常連校、練習試合も組む間柄だという。手の内を読んだ上で、当日の調子や打線との相性を見ての采配か。観戦するメンバーでそれぞれ予測してみるが、もちろん正解は分からない。ただ県大会でしたたかな攻撃力を見せたケントの母校や、西日本最激戦区を制圧した相手校の重量打線を鑑みるに、打ち合いになるだろうという予想も外れ、試合は投手戦になった。
両チーム、ランナーは出るが続かない。卓越した守備力と四死球の少なさも相まって、7回までゼロ行進が続いた。ただ両先発に疲れが見え始め、選手層の厚さから、やはり西の横綱に分があるかと話題になった8回表。
先攻は西の横綱、死球で先頭が出る。当然のように犠打、かと思えば強攻だった。この局面で、しかも今日は目立った当たりがない下位打線だ。皆が身を乗り出す。揺さぶりを掛けてから、疲れが見える投手を嘲笑うように成功するセーフティ、決まって無死一、二塁。
「ここだな」
祐輔の言葉に全員が無言で頷くのが解った。
そして投手が送って一死二、三塁。当たりの出ている一番に戻って、球場と室内の緊張は沸点に達する。
ここで一番避けたいのはバッテリーエラーだ、とは岸本の談で、それは穂高も異論はない。落ちるボールにどれだけ精度があるか、追い込んだあとに使うなら高めの釣り球か、口々に言い合うみんながさあどうだと拳に力が入ったところで、インに入ったボールを打者が弾き返した。
「どうだ?!」
というのは誰の声だったか。
高くたかく上がった打球は、しかしスタンド前で失速する。全速力で追いついたセンターのグラヴに収まった瞬間、ミカワが「タッチアップ」と囁き、三塁ランナーがスタートした。
ケントがぐう、と呻く。
まっちゃんの舌打ちが聞こえた。
ランナーは悠々とホームベースに辿り着く。
…先取点
規則正しくゼロが並ぶスコアボードに、1が。
穂高の嘆息がもれた。
「落ち込むな、次や!」
祐輔の叱咤にケントが顔を上げる。そうだ、ここで切れるかどうかで試合が決まる。しかし四球が続いて二死一、三塁の大ピンチ。ほとんど無言になったメンバだったが、リリーフした東北のエースが踏ん張って、1-0のまま試合は9回裏を迎えた。
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