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「なんと。
そうであったか。
まさか、わしが出てくるのを
待っていてくれていたのか?」
「あい。
あなたさまが、お屋敷に入られるところから」
「健気で哀れな楠よ。
お前の歌を最後に聞いてみたい。
わしの為に、歌とうてはくれまいか」
すると、
楠は照太郎が生まれて初めて聞くような
耳にふわりと優しい息をかけられるような
美しい歌を歌った。
「なんと素晴らしい声であるか」
照太郎は、娘に歩み寄ると、
そっとその細い身体に腕をまわした。
確かに、若葉のような香りが包んだ。
そして、やわやわとした草を枕に
二人は睦んだ。
「わしは、お前を切りとうない」
「あい。
しかしそれでは、
皆が通る道が出来ませぬ。
覚悟はできておったのです。
しかし、あなた様と睦みおうた今
わたしはまだ生きたいと思うてしまいました」
そう言うと、楠の娘はすぅと消えた。
辺りは明るい月明かりに
見事な庭が広がるばかり。
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