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Ⅲ 悪魔の実験には相応な落とし前を
「ーーああ、これはカナールさん! ここにおこしということはバケモノの始末はついたんですね!」
翌朝、俺はサント・ミゲルに戻ると、港の〝ディオダティ亭〟に泊まるヴィクターを訪ねていた。
「だいたい事情はわかったぜ、ムシュー・ヴィクター……いいや、ドクター・ヴィクター・フランケンシュタイン」
そして、バケモノを倒して来たと誤解するやつに、俺はそう答えて革表紙のノートを一冊、放り投げてやる。
「こ、これは私の研究ノート! ……これを読んだのか?」
「ああ。魔導書『ゲーティア』の写本と一緒に隠してある机の引き出しをあのバケモノに教えてもらってな……そうさ。あんたがとなりの墓場から盗んできた死体を繋ぎ合わせ、魔導書の力で魂を吹き込んで造ったあのバケモノにな」
そのノートを見て、ヴィクターはひどく狼狽したみてえだったが、俺はすべてはお見通しとばかりに重ねてやつの秘密を口にしてやった。
「おまけにいろいろ教え込んで、中身だけは人間みてえに育てあげた……だが、そんな可愛いいてめえのこどものようなバケモノを、どうして俺に始末させようとした? それがわからねえ」
「……ああ、可愛かったさ。ほんとに我が子のようにな……あの日までは……」
尋ねる俺に、ヴィクターは部屋の椅子に崩れ落ちるようにして腰かけ、観念した様子でその理由を語り始めた。
「私は神聖イスカンドリア帝国を構成する領邦国家の一つ、ゲネェヴラ共和国のそれなりの名家に生まれ、学者になるためにヴィッテルン選帝侯領のインゴルドステート大学へ留学した。だが、そこで錬金術の授業を受ける内に、ある野心に取り憑かれた……人の手による新たな生命――ホムンクルスの製造だ」
「ホムンクルス……錬金術の伝説にある人造人間ってやつだな……」
「ああ。だが、従来の錬金術のやり方では無理だ。ゆえに私は新鮮な人間の遺体を繋ぎ合わせて受肉する器を造り、魔導書『ゲーティア』を使ってソロモン王の72柱の悪魔序列46番・死者の公爵ビフロンの力で死者の魂を定着させた後、いわば〝生命の火〟と呼べるものを灯すため、落雷のショックを用いる方法を思いついた」
なんとも胡散臭く俄かには信じがてえ話だが、やつの研究ノートにも書いてあったんで本当のことなんだろう。
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