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「…って、おまえ、可愛い我が子だって……」
「何を言っている? こいつをよく見ろ? こいつは遺体を繋ぎ合わせ、死人の魂を吹き込んで造ったバケモノだ。こいつは私の犯した罪の証拠。この世に存在してはならないものなのだ。生かしておくなどとんでもない。私はなすべきことをなしただけのこと……さて、報酬ははずむからこれの始末も頼む。裏の森にでも埋めといてくれ。私は宿に戻って準備があるんでね」
「最初からそのつもりだったのか……準備ってなんの準備だ?」
微塵の後悔も罪悪感もねえ様子のやつに、俺は呆れ果てながらもそのことについて問い質す。
「船に乗る準備だよ。もう新天地に用もないし、ほとぼりも冷めた頃だろうからね。こいつの始末がすんだら、大学に戻ってまた学者を志すつもりだったんだ。じゃ、そういうことで後よろしくね」
白い目を向けて尋ねる俺の質問に、ヴィクターは悪びれもせずにそう答えると、そのままさっさと地下室を出て行っちまった。
「……フゥ…もう起きてもいいぜ。な、やっぱり俺の言った通りだったろ?」
やつの姿が見えなくなると、俺は一息吐いてから地面に転がったバケモノに声をかける。
「……ウゥゥ…ハカセ、ドウシテ……オマエ、博士ガコウスルト、ドウシテワカッタ?」
すると、バケモノはよろよろと半身を起き上がらせ、その黄ばんだ瞳に涙を浮かべながら、嗚咽混じりの声で俺に訊き返した。
……そう。こいつは死んだりなんかしちゃいねえ。ヴィクターがこうするだろうことを予想して、俺はやつに血糊の弾を込めた短銃を渡していたのさ。バケモノは死んだと、やつに思わすためにな。
「なに。俺は〝人間〟なんてもんを端から信用しちゃいねえだけのことさ。これが人の本性ってやつだ」
顔に似合わず悔しげに泣きながら尋ねるバケモノに。俺はさも当然というようにそう答えてやる。
「悪ぃがおまえの居場所はここにはねえ。約束通り、密航して大陸に渡ったら北へ北へと向かえ。北の方にはまだエルドラニアの支配が及んでねえ、俺達も知らねえ原住民の住む土地があると聞く。気休めにもならねえが、もしかしたら、おまえを受け入れてくれるやつらもいるかもしれねえぜ?」
そして、俺の読みがビンゴだった時の予定通り、こいつが生きていける可能性のある一つの選択肢を改めて示してやった。
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