Ⅱ バケモノ退治には確かな備えを

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 なんでも建てた最初の持ち主が亡くなった後、墓地がとなりにあるのを気味悪がって誰も住む者がいなかったのを、新たに村へ来たヴィクターが現金で買い取ったらしい……なかなかの値段しそうな見た目だが、あいつ、けっこうな金持ちなのか?  いったい何やってるやつなのか知らねえが、なんとも羨ましいご身分だなと思いつつ、俺は鞄から魔導書『シグザンド写本』に記された魔除けの円と五芒星を描いた護符を取り出し、充分用心しながらさっそく入口のドアを開いた。  住み着いたバケモノの仕業だろう、ドアの鍵は壊されている……中に入ると周囲を警戒しながら、一部屋一部屋調べてゆく……男の一人暮らしのためか、家具も少なくなんとも殺風景な家だ。  しっかし、真昼間とはいえ、バケモノが住んでるような雰囲気はまるでしねえな……バケモノがいるんなら、もっとこう壁や床に爪で切り裂いた跡ついてたり、家具がぶっ壊されててもいいと思うんだが……。  そんな感想を抱きつつ、ぐるっと全室回ってみたが、やっぱりバケモノは見当たらねえ……だが、その代わりと言っちゃなんだが、廊下の奥に地下へ降りる怪しげな階段を見つけた。  もしほんとにバケモノがいるとしたら、あとはそこしかねえ……そのいかにも何か秘密のありそうな薄暗い階段を、古い木の底板をギシギシ軋ませながら、俺はゆっくりと降りてゆく……。 「な、なんじゃこりゃあ!?」  階段の突き当りにある扉を開け、地下室へ一歩足を踏み入れた瞬間、俺は思わず驚きの声をあげちまった。  そこは、明らかに普通とは違う部屋だった……。  四方を石造りの壁に囲まれた息苦しいその部屋には、所狭しとガラスでできた様々な形の器が棚やら机の上に並び、異様に強烈な薬の臭いがツンと鼻を突く……それに中央に置かれた妙にデカいサイズのベッドには、何やら錆びた鉄製の拘束具のようなものが破壊された状態で残っている……。  こんなもの、バケモノがしつらえたとも思えねえ……あのヴィクターって野郎、いったいここで何をしてやがった……。  ……いや、それよりももっとおかしなことがある……窓もねえ地下室の割によく見えると思ったら、留守宅のはずが天井から吊るさたランプが灯ってるじゃねえか! 「……ハカセ? 博士ナノカ?」  その部屋の怪しすぎる景色に、俺が薄気味悪さと嫌な予感を覚えたその時。不意に背後でそんなたどたどしい男の声が聞こえた。
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