Ⅱ バケモノ退治には確かな備えを

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「……っ!?」  振り返った俺は、さらに目ん玉をこれでもかと見開かされることとなる。  この家には、確かにバケモノがいた……。  身長は8フィート(約2.4m)ぐれえの大男で、人間用のためか、寸足らずな茶のローブを身に着けてはいるものの、露出している顔や腕を見ると半透明の黄色い肌には無数の塗った痕があり、なんというか、ツギハギだらけ(・・・・・・・)といった印象を受ける。それに死体のように濁った眼もぼんやりと光り、何より首の左右には太い鉄のボルトが突き刺さってるじゃねえか! 「博士? イヤ、チガウ。オマエ、ヴィクター博士ジャナイ……」 「ヴィクターのことを知ってる? やっぱりこいつが言ってたバケモノか! だったら話は早え! 古に滅びしシグザンドの魔術によりて汝に命ずる! 邪悪なる魔物よ、とっととここから立ち去りやがれ!」  俺は手にした護符をバケモノへ突きつけると、決め台詞のように魔導書の呪文を唱える。 「オマエ、博士ノ居場所シッテルノカ! シッテタラ、オデ二教エテクレ!」  だが、バケモノはパシンと護符を手で払うと俺の間近にまで迫り、やはり舌足らずな言葉使いでそんな質問を投げかけてくる。 「シグザンドの魔法円が効かねえだと!? んな(ナリ)してるくせに悪霊や魔界のものじゃねえってことか? だったらコイツで……」  眼前に迫るツギハギだらけの醜いバケモノの顔に、俺は驚きと恐怖を覚えながら今度は腰のフォルダーから銀の弾丸を込めた燧石(フリントロック)式短銃を引き抜いてやつに銃口を向ける。 「ウ、ウワァアア〜! ヤベデグレエ〜! 撃タナイデグレ〜! オデハバケモノジャナク人間ダアァァァ〜!」  ところが、さらに驚いたことには引金に指をかけた瞬間、銃を目にしたやつはその凶暴そうな見た目とは裏腹に、俺から飛び退くと頭を抱えて床に丸まっちまった。 「人間? はあ? 何言ってんだ! どっからどう見たってバケモンだろう?」 「違ウ! オデハ人間ダ! 博士ガオデヲ生ミ出シテ、今マデ育テテクレタンダァァァ〜!」  訳のわからねえ言動をするバケモノに俺は小首を傾げるが、さらにやつはおかしなことを口にし始める。
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