第壱章 一

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ほら、と雉を持った手を突き出されて、反射的に忠平はのけ反る。 「や…何をするのです!お止めなさい!」 「まあ、桐丸の御主人は、大層な恐がりだこと」 あははは、と響かせる笑い声も豪快に、屋敷へと入って行く。 まさか姉妹揃ってこの調子なのだろうか。 張り切っていた長兄時平も引き取る気など失せるのではないか。 そんなことに成ろうものなら、必然的に自分に世話役が回ってくる。 忠平は重い息をついた。 「姉上。お目通り戴きたい方が居るのです」 「――え?このような刻限にお客さま?」 狩衣姿のままの妹姫が取り次いだ。 姉姫は慎み深く几帳(きちょう)を立て、姿を隠して忠平に対したので、つい先ほどの心配が多少は和らいだ。 「兄の左大臣時平の名代で参りました。右近中将忠平と申します」 「――? 穏子、貴方は…」 歓迎されるとばかり思っていた忠平は、どうやらそうでもないとこの時に漸く気づいた。 妹姫は忠平の袖を後ろから引っ張った。振り返ると、 「取り合えず、こちらに」 訳も分からず追い立てられて、暗い坊に押し込められた。 話が見えてこない忠平は、 「如何なる事です?これは」 「忠平殿は、時平さまとどのような縁の方なのですか?」 明かりを点して上座を忠平に譲ると、二人は向かい合って座った。 「弟です。そうだ、貴女たちの御名を伺っていなかった」 「私は穏子(やすこ)と申します。姉上は絢子(あやこ)。よろしいですか?姉上には余計なことを仰らないと、お約束ください」
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