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ほら、と雉を持った手を突き出されて、反射的に忠平はのけ反る。
「や…何をするのです!お止めなさい!」
「まあ、桐丸の御主人は、大層な恐がりだこと」
あははは、と響かせる笑い声も豪快に、屋敷へと入って行く。
まさか姉妹揃ってこの調子なのだろうか。
張り切っていた長兄時平も引き取る気など失せるのではないか。
そんなことに成ろうものなら、必然的に自分に世話役が回ってくる。
忠平は重い息をついた。
「姉上。お目通り戴きたい方が居るのです」
「――え?このような刻限にお客さま?」
狩衣姿のままの妹姫が取り次いだ。
姉姫は慎み深く几帳を立て、姿を隠して忠平に対したので、つい先ほどの心配が多少は和らいだ。
「兄の左大臣時平の名代で参りました。右近中将忠平と申します」
「――? 穏子、貴方は…」
歓迎されるとばかり思っていた忠平は、どうやらそうでもないとこの時に漸く気づいた。
妹姫は忠平の袖を後ろから引っ張った。振り返ると、
「取り合えず、こちらに」
訳も分からず追い立てられて、暗い坊に押し込められた。
話が見えてこない忠平は、
「如何なる事です?これは」
「忠平殿は、時平さまとどのような縁の方なのですか?」
明かりを点して上座を忠平に譲ると、二人は向かい合って座った。
「弟です。そうだ、貴女たちの御名を伺っていなかった」
「私は穏子と申します。姉上は絢子。よろしいですか?姉上には余計なことを仰らないと、お約束ください」
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