13人が本棚に入れています
本棚に追加
迷いの末、一息つき再開した。手の平を右へ右へと、目の代わりに移動させて行く。感覚を便りに、一ヶ所ずつ着実に。
「ただいまー」
不意に声が聞こえ、体が止まった。扉の開く音がする。どうするか迷っていると、ほんのり果実の香りがした。
「お、おかえり」
「ねぇこれ、さっきお隣さんからりんご貰ったの……って何か探し物?」
香りの正体が判明すると同時に、行動を言い当てられて戸惑う。だが、嘘の必要性までは感じず、素直に応じた。
「よく分かったね」
「うん、何だか少し散らかってるから。それで、探し物は見つかった?」
協力を申請してくれている――そう悟った。だが、まだ告白への抵抗は抜けず、自然と首を横に振っていた。
「いや。でも大丈夫、君の手を煩わせるほどのものじゃないよ。また、その内出てくるだろう」
「……そう? なら良いんだけど。夜ご飯作るね」
「ありがとう」
罪悪感と妻への感謝で、心が複雑に絡んだ。
最初のコメントを投稿しよう!