迷いと導き

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迷いと導き

 あの人の言葉を思い出す。笑顔の少女と声のない言葉だけが、私の中で繰り返される。  そうだ。写真を失っても、心には残っているじゃないか。こんな時に限って、その言葉を生かせてはいないけど。 「清隆さん、探し物ってやっぱり大事なものだったんじゃない?」 「えっ」  十一時の方向へ箸を伸ばした時、妻が言った。疑惑的でも詮索するでもない、本当に普通のトーンである。  気持ちが態度に出ていただろうか。苦笑いし、また迷う。 「……いや、言ったら笑われるような物だよ。あと君に悪い」 「それは私が決めます。だから教えて」  口調から、少し困った笑顔が見えた。珍しく強気な口調は、私の迷いを知り、導こうとしているかのようだ。  ああ、やはりこの人には勝てないな。
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