迷いと導き

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「……写真」 「何の?」 「初恋の人との……」 「なるほど!」  伝え合うとの約束に反していたにも拘らず、妻から嫌悪感は感じなかった。寧ろ、爽やかな感情を感じる。食卓机の端、置かれたりんごのように。  だからと言い、隠す形になってしまった罪悪感が消えるわけではない。妻だって、滲ませないだけで悲しんでいるかもしれない。 「いや、初恋の人との写真だからじゃなくてね」  思いを想像し、至った経緯を説明してみた。言い訳がましく聞こえるかも知れないが、これこそ約束を守るためだ。貰った言葉に基づいた判断でもある。  まぁ、今からじゃ少し遅いかもしれないけれど。  それでも言葉にしなければ、誤解を与えてしまうかもしれないから。  だが。 「うん、私も見たいから探そう」 「えっ、良いの」 「良いよ。見つけたらその人のこと聞かせてね」 「えっ、話して良いの? 嫌な気持ちにならない?」  妻の中に、私への悪感情は一切無かったらしい。寧ろ、ずいずいと迫られ圧倒されそうだ。  全てを包む大らかさに心が震える。彼女への、愛しい気持ちが更に膨らんだ。 「ならないよ。だって、今は私を大切にしてくれてるの知ってるからね」 「……君は本当に素晴らしい人だね」 「ふふ、そうでしょう」  得意気な彼女が、輝いて思えた。
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