13人が本棚に入れています
本棚に追加
「……写真」
「何の?」
「初恋の人との……」
「なるほど!」
伝え合うとの約束に反していたにも拘らず、妻から嫌悪感は感じなかった。寧ろ、爽やかな感情を感じる。食卓机の端、置かれたりんごのように。
だからと言い、隠す形になってしまった罪悪感が消えるわけではない。妻だって、滲ませないだけで悲しんでいるかもしれない。
「いや、初恋の人との写真だからじゃなくてね」
思いを想像し、至った経緯を説明してみた。言い訳がましく聞こえるかも知れないが、これこそ約束を守るためだ。貰った言葉に基づいた判断でもある。
まぁ、今からじゃ少し遅いかもしれないけれど。
それでも言葉にしなければ、誤解を与えてしまうかもしれないから。
だが。
「うん、私も見たいから探そう」
「えっ、良いの」
「良いよ。見つけたらその人のこと聞かせてね」
「えっ、話して良いの? 嫌な気持ちにならない?」
妻の中に、私への悪感情は一切無かったらしい。寧ろ、ずいずいと迫られ圧倒されそうだ。
全てを包む大らかさに心が震える。彼女への、愛しい気持ちが更に膨らんだ。
「ならないよ。だって、今は私を大切にしてくれてるの知ってるからね」
「……君は本当に素晴らしい人だね」
「ふふ、そうでしょう」
得意気な彼女が、輝いて思えた。
最初のコメントを投稿しよう!