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宝物の写真
私は、とても恵まれた人間だと思う。
時々は心ない言葉だって聞くが、回りには理解者がいて仕事だってある。単純な言葉で言えば、幸せなのだ。
学生の時分は、幸福など得られると思わなかった。不幸な道を辿るものとばかり考えていた。
幸せな今があるのは、やっぱりあの人の言葉があったからで――。
「あれ?」
いつも通り、本を開いた所までは良かった。手順にも変化はない。
だが、何度手繰ろうともいつもの感触がなかった。
写真が、消えていた。
「嘘だろ……」
リビングからは、食事を拵える音が聞こえている。何も変化はない。
ただただ、写真だけが忽然と消えていた。日課が絶えると、何だか不安になってしまう。
周辺を少し探してみたが、それらしいものはなかった。すぐに大捜索したいのは山々だが、探すのは午後からだ。
大切なものを無くしたと妻に打ち明けようか――一瞬考えたが、保留した。
その後、食事を終え、予定通り私は仕事に出た。写真の件は、やっぱり伝えられなかった。
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