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「聞こえた?」
聞こえた。心の中で叫ぶ。
「聞こえただろ?なあ!」
「聞こえた!」
「助けてくれって!それから、それから」
唸り声が背後で聞こえた。僕らは全力で走った。
緩めに縛った紐のせいで靴が飛んでいくのもおかまいなしに走った。
クロックスだったRはとうの昔に裸足で走っていた。痛みを感じる余裕もなかった。
道路まで出たところで僕らは後ろを振り返った。
闇の中を何かが駆けてくる。大きさからして犬。
しかし直感が「違う」と言う。Rが悲鳴を上げながらライトを向ける。それが浮かび上がった。
緑色をしたその物体は確かに犬の体をしていた。しかしその体の上にのっているものは頭部ではなかった。歪な突起がいくつも浮かび上がりブロッコリーのような形を成している。その突起のひとつひとつが闇の中で光を反射していた。それは目だった。苦しみに歪む表情の人間の顔がそこから何本も生えていた。
「逃げろ!」
僕が叫ぶ前にRは駆け出していた。車は近くだ。
しかしそれはものすごいスピードで距離を縮めてくる。だめだ。間に合わない。Rより遅れている僕が先に餌食になる。走りながらポケットから車のキーを取り出した。
「R!こっち向け!」
Rは恐怖に引きつった顔でよだれを撒き散らしながら振り返った。僕はその顔面目掛けてキーを投げつけると振り返る。
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