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それを見ると恐怖で胃が沸騰しそうだった。しかし僕はそれに向かって走り始めた。
逃げきれない。なら後ろから来られるよりも正面から向かっていってギリギリでかわす方がまだ可能性が高いと思ったのだ。
どうして自分がそんな冷静でいられるのかわからなかった。
Sはどうなった?さっきの男は食い殺されたのか?それともあの顔を成している歪な塊の中にいるのだろうか。Sも?
思考は途切れた。瞬きする間にそれは目の前だった。
かわす。かわす。かわす。それだけに集中する。
足が浮いている。足が。
僕はそれが目の前に来た時に足をもつれさせたのだ。体が浮いた。
だめだ。
その時、それの顔の一部に、Sを見た。
しかしそれは僕の隣を風のように駆け抜けていった。僕はアスファルトの路面を転げ回りはっと顔を上げた。悲鳴が聞こえたのはそれと同時だった。
Rがやられた。何故見逃された?しかしそれはすぐに理解できた。
僕とRの間にはそれなりの距離があった。僕が転げ回っている一瞬の間にそれはRに追いついて捕食した。
つまりそれはこの距離の僕なんて今この瞬間にでも捕食できる能力を持っているのだ。だから、ただ後回しにされた。
その瞬間ぞっと悪寒が走った。車の中から這い出してきたそれがこちらを振り向く。無数の目が闇の中に光る。
無理だ。
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