犬神の頭

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 女の悲鳴が上がった。それは声の聞こえた方へ向け駆け出した。僕は立ち上がる。 大丈夫だ。走れる。アドレナリンでわからないだけかもしれないが走れた。全身の痛みを感じられる程度には冷静だった。足の裏の痛みが特に酷かった。ガラスを踏んだに違いない。  車のキーはない。僕は峠を走り出した。思い出せ。Rが昔得意げに語った話。あれは犬神かもしれない。おそらくそれに類するものだろう。この土地に根付く伝承をRは語っていた。思い出せ。  部活の帰り道、Rはよく自分の家に伝わる呪いの話をしていた。そうだ、自転車でRのうちの畑の間を帰っている時だ。練習試合でボロ負けした日だった。もともと弱小のサッカー部で補欠の僕らには試合の勝敗などどうでもよかった。 犬の話。犬の呪いの話をRはしていた。 「まず犬を飢餓状態の殺気だった状態にするんだよ。飢餓状態っていうのは」 「はらぺこのこと」 「そう!はらぺこで何にでも襲い掛かろうとする犬の首を斬り落として道に埋めるんだ。そうしたらその上を何も知らない人が何度も通るだろ。すると犬の怨念はどんどん増していく。そうすると呪物として犬の体が育っていくんだよ」 「えげつねえ」 「だしょ。その呪物から逃れるには頭を掘り出すしかない。それが埋められたって言われてるのがここ」  どこ? Rんちの畑だ。それはここからそう遠くない。
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