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Get back together_2
潰れたのは、俺の左手だった。
バッターのファウルチップを強引に受け止めようとして手の甲全体に亀裂が走った。もがき苦しみ、自分でミットを取り外せない俺のもとに全員が集まった。
泣きそうになったこいつを見て、泣きながら「大丈夫です」と言った俺に説得力なんか欠片もなかった。デッドボールで受けた手負いを隠して我慢し続けたツケが、結果として一気に回ってきた。
交代要員を使い切った監督は俺の訴えを無視して中止を要請して試合は無効。敗者となった俺たちは中学生が発信する高校野球の大改革を成し得ることができなかった。
「ちゃんと動いてるだろ。もう、お前のボールをちゃんと受けられる」
軽快にグーとパーをする俺の左手を握って、風紀委員は泣きじゃくった。責任感の塊みたいなこいつのことだ、ろくに口をきかなかった三年間、ずっと自分を責め続けていたに違いない。
「よかった。本当によかったよ」
小学生から現在に至るまで、こんなにしおらしい姿、初めて見たかもしれない。自分を顧みず約束を守ろうとした馬鹿な男を、目が覚めるまで温もりを与え続けてくれた頑固な女。ポケットから落ちた折り畳みの携帯電話を広げると、防水加工は大したもので画面も電池も問題ない。
たまたま表示したままだった受信メール。「よろしくお願いします」で締めくくったはずの文章は、どういうわけかぐいぐいスクロールできる。
それは、ちゃんと最後までバーを下げないと気づかない最後の一文。
―今でもずっと、あんたを信じてる。
なるほど。良い女だ。店員さんの言ったことは間違いじゃなかった。
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