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Get back together_3
話は数時間前に戻る。
俺がストーブの前で絶賛解凍中のとき、本日のヒロインになり損ねた主役の少女は甘い匂いを感じ取って悪夢から目を覚ました。夕方前のことだ。
彼女の足元には包装されたチョコが置かれていた。不思議そうに見つめていると、自分のために尽力してくれた女性は「早く持って行きなさい」と言ったという。
但し、それは俺が死ぬ思いで集めた三種の神器で作ったチョコではなく、既に作られていたチョコにイニシャルをチョコペンで書き足したものだった。
「まあ、その、ね。私も動揺してたし要領が悪くなってたのよね。ごめんね、せっかく集めてくれたのに間に合わなかった」
責任の所在を問われたら、こんな状態で学校に戻った俺に非があることは疑いようがない。表沙汰になった時の処分を考えたら、警察も病院も頼るに頼れなかったと思う。
そんな死に体の俺を内密で保健室の先生に診てもらい、処置をして命に別状がないことを確認した後は自分を犠牲にして体温を取り戻してくれた。俺と違ってどこまでもできる人間だ。
「謝んのは俺だろ。スマートに渡せなかったことがすべてだよ。努力を無駄にさせちまってごめんな」
「無駄にしたとは一言も言ってないわよ」
ほら、と金髪の前髪を弾ませて彼女は包み箱を俺に渡してきた。一万円分のチョコレートはどうやら巡り巡って自分に還元されたようだ。
ストーブの前で体を寄せ合い、一人分の毛布を被っていると、おもむろに彼女は仰向けに寝っ転がってベランダから海辺を覗いた。夜空は雲ひとつないコバルトブルーに覆われていて、一等星の存在を打ち消すほどの小さな星々が一面に輝いている。横に並んであおむけになった俺もその美しさを享受させてもらう。
「言い出せなくて、ごめん。何度も、何度もその声に応えたかった」
「何に対して謝ってんだよ」
「もう一度、一緒に野球をやりたいって、言えなかった」
「長かったぞ、三年間。言っとくけど、俺がエースやってんのは本物のナンバー1が戻るまでの暫定だからな。さっさとバトン受け取れ」
夜の帳に「うん」というかすれ声が聞こえた。照れくさくてどう返事するか迷っている間にも「あのさ」と彼女は言葉を続ける。
「こんな性格、すぐには変われないと思う。でも、ちゃんと変わるように努力するから」
だから、と間を溜めた彼女はぼそっと「私を、相棒にして」と呟いた。「ああ」と即答した俺に彼女はリアクションを起こさない。そのまま肩にもたれかかって可愛らしい寝息を立て始めたからだ。
こいつが目を覚ますまで今度は俺が起きてる番だ。嬉しいような恥ずかしいような変な感覚が芽生えた次に、妙な緊張感が生まれる。それでも、この寝顔でたまに寝言で名前を呼ばれると、そんなことすべてが吹っとんで可笑しくなってしまう。本当に今日の俺は調子が狂いっ放しだ。
その理由が隣にいる相棒だって言うのなら、それでいい。
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