それが消えたあと、そこに残されたもの。

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それが消えたあと、そこに残されたもの。

「食ってもいい?」 「うん、いいよ。……おいしい?」 「いや、まだ食ってねぇし」 「うん。知ってる」  トモヤのいたずらな笑顔が弾けた。     トモヤから受け取った小さな箱の中から、ヒロキは一つを指でつまみ、口へ運んだ。歯にあたったそれは、こつりと小さな音を鳴らして、ヒロキの赤い唇のあいだに挟まれた。   「ん」  トモヤの目を見ながら、小さく顎を突き出す。  言葉はなくても、ヒロキが何を言いたいのかがすぐに分かった。トモヤの細くなった目は緩やかな弧を描き、同時に口角が上がった。  近付く唇……。  硬さと柔らかさを併せ持ったそれに、トモヤの唇が触れ、そして次に触れたトモヤの歯によって、その表面はわずかに削られた。  唇に触れる、ヒロキのさらさらとした唇の感触がくすぐったくて、トモヤは思わずふふっと吹き出した。その甘く歯がゆい距離を、ヒロキは顎を上げてゼロにした。  触れ合った唇が柔らかく潰れ、それはころんと、トモヤの舌の上に落ちた。     わずかに香ったチョコレートの香り。    それを追いかけるように、ヒロキの舌がトモヤの中へ入っていく。    熱い口内で舌は躍り、  絡み、  溶かし、  混じり合い……  それは強い余韻を残しながら、体の中へと消えていった。      そこに残されたのは、愛だけだった。   「ヒロ。Happy Valentine’s Day!」」 「うん。ハッピーバレンタイン」
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