0人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなドタバタの朝も過ぎ、放課後。
来夏は部活、会長は生徒会、惇貴は補習ということで、残念ながら一緒に帰る人がいない状況に。会長に手伝うことがないか聞いたが、今日は会議のため俺の出る幕はなさそうだった。
栞奈にも連絡を入れたが『申し訳ないのですが、栞奈も帰宅が少し遅くなりそうです。お夕飯もそれからになるので、すみません』という返信が。
そんなわけで、本当に誰もいない帰り道となってしまった。
「……ちょっと寄り道でもするか」
学校を出て、家路とは反対の方向へ。どこか行く当てがあるわけでもないが、少し出歩いてみてもいいだろう。
数十メートル進んだ先で、後ろから駆け足でこちらにやって来る音が聞こえてくる。
「桜花さん、桜花さーん!」
少し息を切らしながら俺を呼ぶ声が。
振り返ると、腰辺りまでウェーブのかかったオレンジブラウンの髪を、ふわふわと揺らしながらこちらに走ってくる女子が。
「園王寺さん?」
「はい。わたくし、園王寺結羽です」
律儀に自己紹介をして、それから息を整える。
「桜花さん、これからお帰りですか?」
「帰ろうと思ってたんだが、ちょっと寄り道でもしようかと思って。目的地があるわけではないけどな」
ぼっちだからという理由はとりあえず言わないでおいた。
「そういうことでしたら、わたくしもご一緒してよろしいですか? 実は行きたい場所がありまして」
「行きたい場所?」
「はい、新しくできたお店がいくつかありまして。でも、一人で行くのもちょっと心細かったもので……」
「でも、メイドさんとかに来てもらえばいいんじゃないか? というか、そもそも歩いていく必要もないだろ」
それほど、園王寺さんはお嬢様。よくは知らないが名家の娘で、めっちゃお金持ち。そんな人がわざわざ徒歩なんて。
「やっぱり痩せるためには運動ですよ桜花さん! それに、今年から高校生になったのですから、わたくしだって自立心というものが生まれますよ」
「なるほど……?」
毎日送迎してもらえるのは自分だったら大歓迎だが、逆にお嬢様として大事にされすぎていたからこその心持ちなのかもしれない。
「そんなわけで桜花さん、もしよろしければご一緒していただけませんか? 結局わたくしのわがままに付き合っていただく形になってしまいますが……」
「まあ、後輩の頼みを無下にすることもできないしな」
先輩のお手伝いをしたり、後輩の頼みを聞いたり。これが中間管理職の高校二年生というものか。
「それではまずは小腹を満たしに行きましょう」
「お嬢様が買い食いか。クレープとかタピオカとか?」
「やだなぁ桜花さん。分かっていらっしゃいますでしょ?」
「まあな」
園王寺さんが行きたい場所なんて、大体想像がつく。
「それでは参りましょう」
俺はスキップ気味に歩く園王寺さんの後ろをついていった。
最初のコメントを投稿しよう!