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Prologue.02
「……どうすればいいんだ」
栞奈からの告白を受けてしまった翌日。幸か不幸か今日は土曜日。気持ちの整理をつける時間があるわけだが、栞奈と一緒には居づらい。結果的に自分の部屋に長い時間こもることになってしまっている。
あれから、栞奈がそれ以上何かを言うことはなかった。食事中は顔を合わせることになるが、ただ黙って食事をしているだけ。逆にそれが怖かったりもするが。
「はぁ……返事、するべきなんだろうなぁ」
栞奈には悪いが、思わずため息が出る。
兄として慕っているのではなく、恋をしている。だからこそ、来夏たちにも嫉妬する。そんな本心を告白された。
「なんでこういう時に限って何も分からないんだよ……」
惇貴のときには上手くいった、恋心を読み取る能力。それが栞奈に対しては全く発動しなかった。本当に厄介というか……上手くはいかないものだな。
「どうすればいいんだろう……」
初めてのことに、正直戸惑いを隠せない。どうしたらいいか分からない。
頭がうまく回らない中、スマホの着信音が部屋に響く。
「……来夏?」
スマホには『青凪来夏から着信』という表示。メールではなく電話だ。
少し不思議に思いつつも、画面をスワイプして電話を取る。
「もしもし」
『あ、もしもし、卯月? ごめんね、急に電話なんかしちゃって』
「別にいいんだが……どうかしたのか?」
来夏が電話なんて、よほどのことがない限りしてこないはずなのに。
『あー……別に大事な用事ってわけではないんだけどね』
少しばつが悪い感じの言い方。本当に何の用なんだろう。
『えっとね……卯月、大丈夫?』
「え?」
予想外の言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「なんでそんな急に……」
ただ、大丈夫かと聞かれれば実際そうでもなかったりする。誰かに相談したい気持ちがある。だけど、これを来夏に言っていいのか分からない。
『まあ私は生まれた時から一緒の卯月マスターですから。何でも分かっちゃうものなんですよ』
「さすがにそれはないだろう……」
これでストレートに栞奈のこと当てられたら、もう来夏の従順な家臣になってやろうくらいの気持ちになるレベルで無理だと思う。
『昨日、栞奈ちゃんに告白されたでしょ?』
「…………」
家臣決定した。
「いや……え、なんで……え?」
『あは、テンパってるねー卯月』
笑って面白がるように言ってくる。ツッコミどころがありすぎて困る。
「なんでそれを……」
『卯月マスターですから』
ドヤ、と聞こえそうなくらいの声を張る。
「……本当は?」
『栞奈ちゃんから聞いた』
まさかの答えに驚くしかなかった。
「は、マジ?」
『マジマジ』
どういうことだ? 栞奈が自分から来夏に言ったって……なぜそんなことを。
『……ねえ卯月、今からそっち行ってもいい?』
「そっちって……俺の家か?」
『そうそう。家に卯月だけなら、ちょうど話も乗りやすいし』
「親は確かに今いないが……栞奈は知らないぞ。自分の部屋にいるかも」
親が二人とも今日は休日出勤でいないのは知っているが、栞奈は分からない。もしかしたら出かけているのかもしれないが、ずっと部屋の中にいたため、知る由もない。
『それなら大丈夫。さっき制服で学校向かうところ見たし』
「さっき?」
何で知ってるんだと言おうとしたが、それよりも先に行動に出た。
「まさかお前……」
部屋の扉を開ける。確かに物音はせず、誰もいないようだ。そのまま階段を降り、玄関を開ける。
すると目の前に人影が。
「あは、来ちゃった」
私服姿の来夏が立っていた。
「なんで……っていうのはもう聞く必要ないか」
「そうだね。話聞いてあげるから、入れてくれる?」
「まだ頼んでもないのに上からなのやめろ」
「じゃあ帰っちゃうよ?」
「……どうぞお入りください。すみませんが相談に乗っていただけますか」
「はーい、お邪魔しまーす」
卯月マスターには勝てなかったよ……。
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