Prologue.02

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「卯月の部屋に入るの久々かもねー。一年ぶりくらい?」 「最後に来たのは、確か新入生テストの勉強会だったな」  ダイニングからお茶を用意し、こちらまで持ってきて来夏に差し出す。 「ありがと。それじゃあ、早速本題に入ろうと思うんだけど」  来夏が真面目なトーンで話し始める。 「栞奈ちゃんの告白、どうするつもり?」  結構ストレートに聞いてきたな……。 「どうするもこうするも、それが分かってたら相談乗ってほしいなんて言ってない」 「確かにね」  苦笑気味に笑う。 「実は相談に乗ると言っても、私もいい案があるわけじゃないんだよね。ただ、ちょっと私にも思うところがあって来たというか……」 「いや、俺としてはこうやって話すだけでも助かってる。正直、戸惑いすぎて頭が働いてない」  あのまま一人でいたら抱え込みすぎていたかもしれない。そういう意味では来夏に感謝しなければ。 「卯月は分からなかったの? 恋心を察知する能力は?」  惇貴同様、来夏も俺の能力は知っている。 「あれは受信専用みたいなものだからな。ピンと来る時もあれば来ない時もある。栞奈が誰かに恋心を持っているのは分からなかったし、よもやそれが俺に向いてるとは思わなかった」 「まあ、事前に分かってたらその時から何かしら考えてたよね」  そう。こうして唐突なのもあってパニックになっている。頭で分かってはいても、どうにも上手く考えられない。 「それで、卯月としてはどうなの? 栞奈ちゃんのこと、女の子として見ることはできない?」 「……どうなんだろう。でも確かに、妹としてしか見てなかったのは事実だな」  栞奈と血のつながりはない。栞奈が俺に恋愛感情を持つことに対して、別に変なことだとは思っていない。 「昔から……そうやって見てくれてたんだろうな。なのに、俺は妹として見てるだけで、何も気づいてやれなくて……」  申し訳ない、という気持ちもある。気づいてやれなくてごめん。そうやって言うことさえ、今はできていない。 「卯月は優しいからね。そうやって思っちゃうのも分かるよ。でも、別に栞奈ちゃんは今すぐ返事をもらおうとは思ってないと思うよ」 「……なんで分かるんだ?」 「……逆に、卯月は何も気づいてないの?」  訝しげな表情で聞いてくる。 「気づくって、何に?」 「恋心を読み取るってわりには、鈍感だなぁと思ってさ」 「……?」  俺もこの能力が便利だと思ったことはない。鈍感と言われてしまえば、確かにそうなのかもしれない。  来夏は話を続ける。 「私は期待してたんだよ。卯月にそんな力があるなら……私は」  そして、何か意を決したかのようにこちらを見つめてくる。 「ずるいけど……私は、幸せになれると思った」  それは、昨日の栞奈のような表情で。 「ねぇ、卯月」  それは、恋をする女の子の顔で。 「私のこと、好きですか?」  震えた声に、俺は何も考えられなくなった。
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