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「卯月の部屋に入るの久々かもねー。一年ぶりくらい?」
「最後に来たのは、確か新入生テストの勉強会だったな」
ダイニングからお茶を用意し、こちらまで持ってきて来夏に差し出す。
「ありがと。それじゃあ、早速本題に入ろうと思うんだけど」
来夏が真面目なトーンで話し始める。
「栞奈ちゃんの告白、どうするつもり?」
結構ストレートに聞いてきたな……。
「どうするもこうするも、それが分かってたら相談乗ってほしいなんて言ってない」
「確かにね」
苦笑気味に笑う。
「実は相談に乗ると言っても、私もいい案があるわけじゃないんだよね。ただ、ちょっと私にも思うところがあって来たというか……」
「いや、俺としてはこうやって話すだけでも助かってる。正直、戸惑いすぎて頭が働いてない」
あのまま一人でいたら抱え込みすぎていたかもしれない。そういう意味では来夏に感謝しなければ。
「卯月は分からなかったの? 恋心を察知する能力は?」
惇貴同様、来夏も俺の能力は知っている。
「あれは受信専用みたいなものだからな。ピンと来る時もあれば来ない時もある。栞奈が誰かに恋心を持っているのは分からなかったし、よもやそれが俺に向いてるとは思わなかった」
「まあ、事前に分かってたらその時から何かしら考えてたよね」
そう。こうして唐突なのもあってパニックになっている。頭で分かってはいても、どうにも上手く考えられない。
「それで、卯月としてはどうなの? 栞奈ちゃんのこと、女の子として見ることはできない?」
「……どうなんだろう。でも確かに、妹としてしか見てなかったのは事実だな」
栞奈と血のつながりはない。栞奈が俺に恋愛感情を持つことに対して、別に変なことだとは思っていない。
「昔から……そうやって見てくれてたんだろうな。なのに、俺は妹として見てるだけで、何も気づいてやれなくて……」
申し訳ない、という気持ちもある。気づいてやれなくてごめん。そうやって言うことさえ、今はできていない。
「卯月は優しいからね。そうやって思っちゃうのも分かるよ。でも、別に栞奈ちゃんは今すぐ返事をもらおうとは思ってないと思うよ」
「……なんで分かるんだ?」
「……逆に、卯月は何も気づいてないの?」
訝しげな表情で聞いてくる。
「気づくって、何に?」
「恋心を読み取るってわりには、鈍感だなぁと思ってさ」
「……?」
俺もこの能力が便利だと思ったことはない。鈍感と言われてしまえば、確かにそうなのかもしれない。
来夏は話を続ける。
「私は期待してたんだよ。卯月にそんな力があるなら……私は」
そして、何か意を決したかのようにこちらを見つめてくる。
「ずるいけど……私は、幸せになれると思った」
それは、昨日の栞奈のような表情で。
「ねぇ、卯月」
それは、恋をする女の子の顔で。
「私のこと、好きですか?」
震えた声に、俺は何も考えられなくなった。
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