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「来夏……?」
それは、栞奈と同じ突然の告白。
「……ごめん、卯月。勝手でごめん」
下を向いたまま、いつもの元気なトーンが消える。
その瞬間、来夏のスマホにメッセージの通知が鳴り、画面に内容が表示される。
『来夏さん、告白できましたか』
メッセージの上には『竜胆栞奈』の文字が写っている。それが意味するものとは。
「来夏、お前……」
来夏は表情を見せない。
「ずっとずっと、卯月のそばにいられる自信があった。何でも相談してくれて、いつでも私のことを受け入れてくれて。周りに他の女の子がいたって、私は一番になれる気がしてた」
言葉をこぼしていく。
「卯月が恋心を読み取れるなら、いつかは私に気づいてくれると思ってた。だけど……そんな臆病さが、こんな事態を招いちゃったね。栞奈ちゃんに言われて、慌てて告白しちゃうとか……こんなはずじゃなかったんだけどね」
栞奈に聞いて相談を受けに来たというのは、建前だったということ。多分実際には、栞奈が俺に告白したことを報告し、そして来夏も俺に告白するように誘導した……みたいな感じなのだろう。
「ごめん、卯月。もっと困らせることして……ごめん。でもやっぱり、卯月の一番になりたくて……」
「……謝るのはこっちの方だ」
栞奈と同じく、それに気づいてやれなかった。その責任は俺にある。
その時、また来夏のスマホにメッセージのポップアップが表示される。
『栞奈は、誰にも負けませんから』
何となく、これからどうなるか予想はつく。それでも、俺は気づけないふりをしようと、そう思ってしまった。
「嘘ついてごめん。勝手におしかけちゃってごめん」
来夏は謝罪の言葉をやめない。
「……返事は、今じゃなくていいか?」
とりあえず、告白を受けた側として、ここはしっかりしなければいけないだろう。栞奈のときに反省した点だ。
「それは別に大丈夫。でも……わがままだけど、これからも今までと同じように接してくれると嬉しい」
やっと顔をあげる。うるんで充血した瞳が、来夏の今までの秘めた思いを物語る。
「俺が来夏をそんざいに扱うなんてことは絶対にしない。大事な幼馴染なんだから」
やっと、来夏は笑みをこぼす。
「ありがと……やっぱり、卯月は優しいね」
少しだけ、晴れた気持ちになったのだろう。サッと立ち上がり、帰る準備を整えようとする。
「もう帰るのか?」
「そりゃあまだ居たい気持ちもあるけど……こんな気持ちのままここにはいられないよ」
申し訳なさそうに笑う。
「でも、すっきりもしたよ。これからもよろしくね、卯月」
「ああ、よろしくな」
不完全燃焼。そんな雰囲気を漂わせながらも、まるで全部が片付いたかのように話す。
それはお互い、未来を考えたくなかったから。
次に起こることが、何となく分かっている。そこから目を離したかった。
「それじゃあね」
来夏を玄関先まで送って、扉を閉める。
……すべてを、閉ざすことができたら良かったのに。そんなことを思ってしまった。
その瞬間、"次"が起こる。スマホにメッセージの通知が鳴る。
『桜花くん。休日で申し訳ないんだが、学校で手伝ってほしいことがある。いいだろうか?』
無視したくても、そんなことはできない。
『分かりました、準備して向かいますよ』
そうやって、返すしかなかった。
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