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「許せないっ! あの人結婚してたよ! あたし......信じてたのに......フェッ、フェッ......」
カウンター席の一番奥へで、フェッ、フェッ......と変な声で泣くOLを見ても、決して笑ってはいけない。なぜなら......本人は本気で悲しんでるんだから。
「茉莉(まり)サン、男なんて星の数だけイマス。まぁ、これでも飲んで少し落ち付きマショウヨ」
『失恋』と言う事に関しては、そこそこ経験値の高いイケメンハーフバーテンダーは、茉莉の気持ちが良く分かっているようだ。
すると、
コトン。
さりげなく、ホワイトカラーのカクテルを前に差し出した。
「何よこれ? カルピス?! あたしが子供だって言いたいの?!」
まるで刃物で刺して来そうな勢いだ。銃刀法違反で逮捕しますよ!
などと、『BAR SHARK』の常連様に言える訳も無かったのである。
「子供? 飛んでもナイ......マァ、一口飲んでみて下サイ。これはウォッカベースの大人のカクテルデス」
「あら、そうなの? ならば......」
トクトクトクトクッ......
「ちょっと、一気飲みはまずいデスッテ! ウォッカベースって言ったデショウ。それアルコール度高いんダカラ......」
「べらんめぇ......客がどう飲もうと勝手だ! でもまぁ......美味しいわ。フェッ、フェッ......」
なぜだか、江戸っ子口調に七変化する茉莉さんだった。酔いが一気に回っているのかも知れない。
「これは『バラライカ』と言う名のカクテル。恋は焦らず......そんな気持ちが込められた飲み物なんデス」
澄ました顔でウンチクを述べるバーテンダーポールだった。
「ふ~ん、恋は焦らずか......別に、焦った訳じゃ無いんだけどね......でも人を好きになるのって、ほんと辛いよね。何だか、もう恋をするのが恐くなっちゃった。もう死んじゃおうかな......なんて思っちゃう」
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