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茉莉さんの気持ちも何となく分かる気がする。この前店に来てくれた時、彼氏が出来たって、マジで喜んでたもんな......幸せそうな顔してたし。
でも人を好きになるのって、辛い事ばかりでも無いと思うんだよね。例えそれが、成就しなくてもさ......
やっぱ、茉莉さんには少しでも早く立ち直って欲しいと思う。.....すぐ感情的になるとこはあるけど、根は本当に素直でいい子だからね。
茉莉さんならきっと分かると思う。僕が君に何を伝えたいかって事を......
やがてポールはキリリと表情を引き締めた。そして茉莉の顔を見詰め、そしてゆっくりと口を開く。
「茉莉サン、今カラ僕がいくつか質問を出しマス。全て正直に答えてネ。それとYES or NOの質問には必ず『YES』と答えて。NOはダメだよ。イイカイ?」
「急にどうしたの? 別に構わないけど......それって何?」
ポールが突然真面目な顔して、そんな話をして来たので、茉莉の顔には???記号が浮かび上がっている。確かにそれは唐突だった。
「あまり深い意味は無いヨ。強いて言うナラ......茉莉さんが目を覚ます為の『おまじない』カナ」
「ふ~ん、『おまじない』? あたしが目を覚ます?......別に今寝てないけど。まぁ、いいか......分かった。でももし、あたしが目を覚まさなかったら?」
「今日は僕のおごりデス」
「そう、じゅあおごって貰おうかな。いいわ......さぁ、初めて」
時刻は夜の12時を回っていた。そんな深夜であるが故に、客は茉莉だけ。きっと終電を気にする必要も無いのだろう。
『BAR SHARK』の片隅に置かれた古臭いジュークボックスは、今宵も懐かしのオールディーズを落ち着いた店内に送り続けている。
She
May be the face I can't forget
The trace of pleasure or regret
May be my treasure or the price I have to pay ......
エルビスコステロの『she』......渋い歌声だ。
ポールがお気に入り、映画「ノッティングヒルの恋人」の主題歌だ。
そんな渋すぎるBGMを追い風に、ポールが予告通りの『おまじない』を開始した。
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