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「使おうと思ってはいたんです......で、でもその前にあなたが、息を吹き返したんで......」
もはや、ご婦人の身体は恐怖にブルブルと震えていた。言葉にならぬような言葉で、ただ必死に弁明するのがやっとの様子。多分、自分が救命を止めて欲しいと言った事がこの男にバレやしないかと、びくびくしていたのだろう。
「俺の兄貴はな、このAEDってオモチャに殺されたんだ! 何が救急救命士だ?! 結局兄貴を救えなかったじゃないか。救急救命士なんてな、どいつもこいつも無能な糞バカ野郎ばかりだ。まぁ人殺しといて、医学の限界とか何とか言っとけば話は済むんだから、楽で賢い商売だとは思うけどな」
よくそこまで言ったものだ。明らかに、何かの意図が伺える。きっと言ってる本人が、一番心を痛めているに違いない。
そして遂に......
この原始的なる挑発に、僅かな反応を示した者が居た。その者は明らかに怒りが全身に滲み出ている。そんな様子に気付いた松葉杖老人は、更なる追い討ちを掛けていった。
「おい、どうした女中?! なんか文句でも有るのか? それとも、お前が救急救命士だとでも言いたいのか? ハッ、ハッ、ハッ......こんな旅館の水商売やってるババーが救急救命士の訳ないか」
旅行客に扮した『エマ』
フロントマンに扮した『ポール』
男性客に扮した『マスター』
そして、
ご婦人に扮した『美緒』
松葉杖老人に扮した『圭一』(今回のMVP候補)
その時、全10個の目が再び女中の口元に集中した事は言うまでも無い。
しかし......またしてもここで邪魔が入ってしまう。女中が口を開くよりも、それは一瞬だけ早かった。
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