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「私も全くの同感です。人間の生死などと言うものは、全て神様の気紛れで決まるもの。身体に電気を通してまで、私も運命を変えたいとは思いません。ですので、当館にもAEDなどと言う『オモチャ』は置いていないのです。
お客様は今、自然にこの世へと戻って参りました。それはまだまだ神様が、あなた様のような『人格者』を必要としている証です。これからもずっと長生きして欲しいと、奥様もきっと願ってらっしゃると思いますよ」
担当刑事に続いて、今度は女将......何としても、殺人容疑者を守りたいと思う人間が、この世には多く居るらしい。全く......困ったものだ。
「......」
一方、それまでまくし立て続けていた松葉杖老人も、遂に万策尽き、言葉を失ってしまう。
「さぁ......お客様もすっかり顔色が戻って来たようです。もはや、再び心臓が止まる事も無いでしょう。ちょっとあなた、まだ救急車呼んで無いんでしょう?」
勝ち誇ったような笑顔を浮かべた女将は、3日前、この旅館で雇ったばかりの新人フロントマンにそう語り掛けた。
「あ、え、ああ......ま、まだ......デシタ」
「でしょうね......さぁ、私達はまだ後片付けが残ってますので、ここで失礼させて頂きます。さぁ、行きましょう」
女将は、まだ怒りが収まらぬ女中の腕を掴み、強引に食堂の中へと、姿を消して行ったのである。
ダメだ......女将にはバレてた。完敗だ! エマは、唇を噛みしめ、悔しさを露にしてみせる。
しかしエマの目からは、まだ火は消えていなかった。そしていよいよ、舞台は最終、第3フェーズへと移行を開始していったのだった......
「全くなんだこの旅館は?! おもてなしの国、日本が聞いて呆れるわ! 俺はもう不愉快だ。とっとと帰るぞ! 直ぐにタクシーを呼べ!」
それはそれは、大きな声だった。きっと食堂の中の女将と女中にも、はっきりと聞こえていた事だろう。
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