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一方、そんな松葉杖老人の声が響き伝わった食堂では......
「あ、あいつ......絶対に......許せない!」
感情のコントロールがままならない女中と、
「玲子さん、挑発に乗っちゃダメ。あの人達は、あなたが『救急救命士』だって事を認めさせたくて仕方が無いのよ」
なおも冷静な女将が、慌ただしく密談を開始していた。
「あの老人......救急救命の仕事をあんな風に言うなんて......」
気付けば女中は目に涙をいっぱい溜めている。中傷されて、さぞかし悔しかったのだろう。
もしあの時......女将が機転を効かせてカットインを入れてなければ、きっと女中はまんまと誘導尋問にはまり、逮捕の憂き目に遭っていた事は明らかだ。ここはもう女将に感謝するしか無い。
そんな女将はなおも冷静に言葉を重ね続けた。それはもう、自分の子に言い聞かせるような口調だ。
「あなたが槇田玲子だって事は、もう完全にバレてる。名残惜しいけど......今すぐあなたはここから逃げなきゃならない。もう一刻を争う状態よ。遊歩道の先に車をとめています。直ぐに荷物をまとめて、裏口から出て行きなさい!」
力強くそのように語った女将もまた、目に大粒の涙を浮かべていた。もしかしたら、玲子を我が子のように思っているのかも知れない。
「分かりました。女将さん......最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
「何かしら?......」
「こんな見ず知らずの犯罪者に......なんで......ここまでしてくれるんでしょうか?」
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