第一話 バラライカ PAUL BOID

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「ソレデハ茉莉さんにお聞きシマス。茉莉サンが好きだったそのお方の名前は? フルネームでお答えクダサイ」 「狩野 光輝(かのう こうき)......です」 その名を口にした時、茉莉の唇は震えていた。きっと最後に見たその者の顔を、思い出したに違いない。 「茉莉サンは、光輝サンを心から愛していたのデスネ?」 「YES......」 「死ぬほどマデニ愛していたのデスネ?」 「YES......」 今更なぜそんな事を、敢えて茉莉に聞くのか?......茉莉の話を聞いていれば、そんな事分かる事だ。ポールの質問の真意が読めない。 しかしそんな質問が、『目を覚ます為のおまじない』に、必要不可欠である事は間違い無さそうだ。なぜならポールの顔に、茶番は全く含まれていなかった。 「光輝サンは、命より大事な人なんデスネ?」 「YES......」 「光輝サンの為だったら、自分の命などいつでも投げ出せますネ?!」 「YES......」 ポールの語気は、質問を重ねていく度に強まっていく。その意図は未だに分からない。 しかし不思議な事に、それまで死んでいた茉莉の目が、徐々に光を取り戻している事だけは間違い無かった。 きっとポールが『おまじない』? を掛けているのからなのだろう。 そんな茉莉の僅かな変化を他所に、ポールの『YES』オンリーなる質問は、更なる佳境へと誘われていく。
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