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しかしそんな安易な予測とは裏腹に、思わぬ高い壁がエマ達の前に立ちはだかった訳である。それは2匹の『番犬』と言う名の壁だった。
この2匹の番犬から玲子を引き離さない限り、決して勝利は掴めない。しかし逆に言ってしまえば、引き離せば、即、勝利と言う事になる。
エマの動きは素早かった......嗅覚鋭い『番犬』女将には、『逮捕』と言う刺激臭を嗅がせて玲子を手放させ、『気紛れ番犬』担当刑事には、『勝利』と言う甘い香りを嗅がせて、露天風呂に孤立させた。
そんなエマの思惑通り、番犬達から引き離された玲子は、全ての盾を失った仔犬のような存在へと化していったのだった......
そんな仔犬は旅館を飛び出し、たった1匹で遊歩道を不安に駆られながら、進んで行ったのである......
自分の歩くすぐ先に、思わぬトラップが待ち構えてるとも知らずに......
ザッ、ザッ、ザッ......
少し走っては左右を見渡してみる。人の気配は無い。そして再び、
ザッ、ザッ、ザッ......
また少し走っては、後ろを振り返ってみる。今度も気配は無い。そして更に、
ザッ、ザッ、ザッ......
舗装されていないそんな遊歩道の足元を見詰めて走っていた玲子は突如立ち止まり、顔を上げた。
すると......
「ちょっとあなた、足元に気を付けて下さい。大きな石が転がってますよ」
「全くなんだこの遊歩道は?! 客に来て欲しかったら、ちゃんと舗装しろって言うんだ!」
なんと、20メートル程先に、先客が歩いているではないか。そんな姿に気付いた玲子は、慌てて木の影に身を隠す。
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