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見れば松葉杖老人だけに、その足取りはやたらと覚束ず、亀レベルのスピードだ。ウサギとなって一気に抜き去りたいところではあったが、逃亡していく姿を見られるリスクは計り知れない。
くっそう......こいつはどこまであたしの邪魔するつもりなんだ! こうしてる間にもいつ逃亡がバレて、追っ手がやって来るか分かったもんじゃ無い。通報でもされようものなら、そこら中に検問が敷かれて、逃げ場を一気に失ってしまう。
老人達が1時メートル進めば、玲子も1メートル進む。また更に1メートル進めば、玲子も合わせて1メートル進んだ。
道路までの距離凡そ300メートル......旅館を発ってから既に30分が経過していると言うのに、未だ100メートルも進んでいない。
イライライラ......
イライライラ......
玲子のそんなイライラゲージは、一気にデッドゾーンへと突入していった。怒りの矛先は言うまでも無い......自身の天職を散々罵倒してくれた松葉杖老人に他ならなかった。
そして遂に......
あいつさえ居なければ!
燃え上がる怒りは、『殺意』と言う名の最終形へと変貌を遂げていくのだった......
あの哀れな奥さんは、あいつの死を望んでた筈だ。あたしが殺したところで、きっと口を貝にしてくれるに違いない。むしろ感謝されてもおかしく無いだろう。
それに......あたしは既に1人殺してる。もう1人殺したところで、何も変わりはしない......
そんな悪魔の囁きは、一気に玲子を凶悪な殺人鬼へと誘なっていった。
やがて悪魔は、厨房から護身用に持ち出した出刃包丁を力強く握り締め、スタスタスタ......静かに木陰から飛び出して行くのであった......
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