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※ ※ ※
ザブーン......
「あたし、ちょっとのぼせたみたい。先に上がらせて貰うわ」
遂に敗北を認めた担当刑事 沢山一美は、なぜだか清々しい表情を浮かべながら、湯から身体を出していった。
「ちょっと一つだけ教えて......なぜ槇田玲子がこの旅館に潜伏してるって分かったの?」
「う~ん......それは簡単。人間ってさ、究極まで追い込まれると、最後に頼れるのはやっぱ身内じゅない? よく見りゃ似てるこの2人って番組、昔、観た事ない?」
「なるほど......そう言うことか」
「でも知ってたのは、母親の方だけだったりしてね。ウフッ」
「まぁ、よく有る話だわ......」
やがて、
ピーポー、ピーポー......
そんなサイレンの音が俄に近付き始めて来る。
「おっと......面倒臭い連中がやって来たようだ。あたしもそろそろトンズラするとしましょう......」
結局......玲子は警察に逮捕された。しかし、追及された罪はDV夫、槇田一徳殺しの1件のみだった。圭一達も、女将の怪我手当てが終わるまでは警察への通報を待ち、そして女将もまた怪我をひた隠しに隠し通した。
やがて数年後......女将は病死。それとほぼ同時期に刑務所から出所した玲子は、『せせらぎ荘』を受け継いで、その後大いに繁盛させたと言う。
玲子がこの旅館の女将となり、まず真っ先にやった事と言えばそれは、遊歩道の整備だったそうだ。
そんなきれいに舗装された遊歩道を見て、玲子は周囲の人達に、
「よし、これなら松葉杖の人でも早く歩ける」
満足気にそう漏らしたそうな......
(第二話 フェイク 完)
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