乱れ華の芽吹き

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女子たちが今年も俺にチョコを押し付けようとする。ほとんどが義理と呼ばれるものだが、残念イケメンと認知されている俺は親しみやすいのか、女子たちはほいほいと俺にチョコを押し付ける。大体が五十円もしないチョコ。 「ロリじゃなくてごめんね」と、いじり倒してくる。それとは別に俺は男子からも毎年のようにチョコをもらう。確実にいじられているのは分かっているので「お前が十年若かったら可愛いだろうな」と返していたらショタコン要素もありとバレンタインディの前後はからかわれる。それが俺なりの楽しみ方でもあるから周りも気にしていない。 ただ……、今年は一つ違う。俺の下足箱に入っていたラッピングされたチョコ。それについていた手紙。佐々木恵斗の名。 『宏樹、格好よくなったね。約束覚えてる?僕は今でも覚えてる』 約束。将来結婚しようのあまりに幼い約束しか俺の頭には浮かばなかった。あの頃の恵斗のままなら受け入れるのになとチョコを口にしながら、また写真を眺める。もし恵斗が近くにいても俺には気付けなかったのだ。もう見た目も大分違うのだろう。学校の俺を知っているのなら、同じ学校に通っているかも知れないのにだ。 その手紙をまじまじと見つめたその夜。俺が胸にしていたのは期待なのか不安なのか判断がつかず結局徹夜をした。 二月十五日。それは再会の日だった。眠い目を擦りながら学校に入ると俺の下足箱の前に一人の男が立っていた。いや制服で男だと判断できた。間違いなく恵斗だった。成長した恵斗は背は低く可愛らしい顔立ちはそのままに綺麗になっていた。 「宏樹、手紙読んでくれた?」 その言葉に俺の胸は高鳴るが、いたずらかも知れないと脳が警告する。 「読んだよ。約束って何のことだよ?」 「忘れたの?僕はずっと覚えてるよ」 恵斗の見た目が幼いだけに、背丈と顔立ちがショタというに相応しく、女装させたなら完全に女の子に変身しそうだと邪な気持ちがふつふつと沸いてくる。 「何の約束だよ?」 どうして俺は、こうも馬鹿なのだろう。せっかくの再会なのに冷たく当たってしまう。 「結婚しよう。その約束だよ」 人が押し寄せる場所で恵斗は間違いなくそう言った。悪びれもせずに。
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