山の麓にはバケモノが棲んでいる

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山の麓にはバケモノが棲んでいる

『山の(ふもと)にはバケモノが住んでいる。見付かれば命はない』  一族の子供達は皆、幼い頃からその話を幾度となく聞かされ、山を下りる事を禁じられていた。  そもそも、集落は切り立った崖に囲まれていて、下りたくとも下りられない場所に位置している。わざわざ危険を冒して禁を破ろう等と考える者はいなかった――ソウタを除いては。  ソウタは、他の者が疑問にも思わない「しきたり」や「言い伝え」に「何故?」を覚える子供だった。  様々な決まり事を破っては、(おさ)たちに叱られる――そんな子供だったのだ。  だから、ソウタが麓への興味を諦められぬのは、自明の理と言えた。 (そもそも、誰も麓に行った事がないのなら、そこにバケモノがいるなんて分かるはずもない)  そう考えたソウタは、長たちの目を盗みながら丹念に集落の周りを調べ続けた。そして、ようやく見付けたのだ――麓へと下りる抜け道を。  そこは、小柄なソウタがようやく通り抜けられるような自然の洞窟だった。細く狭苦しい急な傾斜のついた洞窟が、崖の下まで通じていたのだ。  ソウタは早速とばかりに洞窟を抜け、麓を目指した――。
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