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――ソウタが集落に帰り着いたのと同じ頃、麓の村に一人の猟師がその日の収穫を携え、舞い戻っていた。
「おう、吾作どんでねぇか! ほぉ~雉に兎に、そっちはうまそうなキノコでねぇか! 大猟だのう!」
「今年は山の恵みが豊かでのぅ……じゃがな、与兵衛どん。ちぃと気になる事があるんだわ」
吾作と呼ばれた猟師は、出迎えた村人――与兵衛に渋い顔をしながら答えた。
「ほう、なんだっぺ? また暴れ猪でも出たんかね?」
「いんや……猿よ。猿が出たんじゃわ」
「猿が……?」
吾作の言葉に、与兵衛が顔を曇らせる。
猟師である吾作と違い、与兵衛たち他の村人は農耕で身を立てている。だが数年前、山から猿たちが大挙して押し寄せ、作物を荒らしていくという事件があった。その被害は甚大で、危うく村全体が飢餓に陥る寸前となったのだ。
猿たちは、吾作とその猟師仲間により山へ追い払われ、しばらく姿を見せていなかったのだが……もしまた現れるとしたら、大事である。
「今度は追い払うだけじゃ駄目だっぺな。本格的に山狩りして、数を減らさにゃ。……与兵衛どん、村長に話を通しておいてくんねぇか?」
「おうおう、分かっただ! そん時にゃ、オラも手伝うだよ! にっくき猿どもを根絶やしにしちゃるけんのぅ!」
――その数日後、村人たちによる山狩りが行われ、猿の群れは住処を追われたという。
(了)
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