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第九話 その仮面を取れよ
「おい! 一体全体どうなっているんだ!」
「さっさとゲームの様子を見せなさいよ!」
「こっちは賭けの参加費だけで大金を支払っているんだぞ!」
「み、皆様もう暫くお待ちを――」
冗談じゃないと、憤る観客たちを相手していた司会者が心のなかで舌打ちする。
一体何がどうなっているか知りたいのはむしろ司会者の方だった。ゲームは最初の内はいつもどおり順調にスタートしたし、進行も問題なかっった。
毎回必ず開幕で誰かを殺す軍曹も健在であり、今回は生徒の中で誰が最初に軍曹に殺されるかという賭けも盛り上がっていた。
ここにいるものは全員顔に仮面をつけていた。司会者も一緒だった。この場ではそれがルールだった。だがそれ故にかトラブルが起きた時の荒れようも酷い。
これだけ本性を剥き出しにしているような連中が現実では大企業のトップであったり名のある銀行の頭取であったり誰もが知る財閥の元締めだったりするのだから世も末だななどと司会者も思ってみたりしだ。
もっともだからこそ連中はこの手のゲームに目がない。彼らは金が余りすぎていてもはや何に使っていいかもわからないようなやつらだ。そして常に熱い刺激を求めているような連中でもある。
そしてだからこそサバイバルロストのようなデスゲームにはまってしまう。サバイバルロストにターゲットとして選ばれるのは日本の高校生と決まっている。
日本は誰もが知る世界でも有数な安全で平和な国だ。銃の所持も禁止されており殺人件数も少なく犯罪率も低い。
そんな国のしかも高校生が突如この運営が所持する島に運び込まれ殺し合いをさせられる。平和な国に生まれた子どもたちに突如訪れる理不尽な殺し合い。このシチュエーションが金持ちの参加者の心を捉えて離さないのだ。
しかし、この連中ときたら本当に頭のネジが飛んでるような奴らばかりだ。中には自分の子どもや孫が巻き込まれる場合もあるのだが、そういった時でも逆に興奮し、身内が活躍すれば喜び死ねばカスがあんなものは身内でもなんでも無いと罵る。そんなイカれた連中ばかりがここに集められている。
だが、だからこそ奴らはこのゲームで賭けに熱中し湯水のように金を支払ってくれる。運営からしても万々歳なのだが、今回に限ってはその欲望の強さが仇となった形だ。
しかし、一体上は何をしているのか。画面が途切れたのは軍曹が銃弾を外した後だった。まさかあの軍曹が一撃で仕留められないとは、この結果に会場からは落胆の声が漏れた。
わざとではないだろうな? などという批判的な声も一部では聞こえた。何故なら軍曹が外す結果を予想出来たものは誰一人としていなかったからだ。
当然これは全て運営の総取りとなってしまう。参加者も納得しないだろう。
しかもその後全く画面が現地に切り替わらないのだ。
『これ以上は流石に無理です! 一体何が起きているのですか?』
『もう少し場をつなげ。原因を解明中だ』
司会者が問うも、さっきからシステム管理部の答えはそればっかりであった。全く無茶を言うなよ、と辟易する彼だったが。
「へぇ~あんたらがこの悪趣味なゲームに夢中な連中か」
「は?」
その時、突如若い男の声が会場内に響き渡った。司会者は目を丸くさせていつの間にか隣に立っていた制服姿の少年を見た。
意味がわからなかった。
なぜ、こんなところに高校生が? 当たり前だが未成年が入っていいような場所ではないしそもそも制服を着ているような学生がお気軽に来れるような場所でもない。
どこの国にも属さない離れ小島にこの会場はあるのだ。だが少年が着ているのはどうみても高校生が着るような学生服だった。
ありえないことだった。そもそもで言えば全く気づかれることなく司会者の隣に立っていることもありえない話だが。
『え~え~ただいまマイクのテスト中』
「は? な、お前いつの間に!」
その少年はいつの間にか司会者が手にしていたマイクを奪っていた。そしてざっと会場の客たちを見渡しながらこんなことを口にする。
『どうも皆さん。今回このゲームに巻き込まれた普通の高校生の伊勢 海渡です。突然ですが今日は皆さんに引導を渡しに来ました』
「は?」
「おい、何を言っているんだあの馬鹿は?」
「引導、あの子どもがか?」
「はは、これは笑わせてくれる」
海渡がそう宣言した直後、会場が爆笑の渦に包まれた。それを見た時、司会者はもしかしらこの場を繋ぐために呼ばれた少年なのか? などと呑気なことを考えたりしたが。
「き、貴様、一体どこから侵入した!」
「不審者め! 今すぐ排除する!」
「へ? ひ、ひぃいぃいい!」
突如会場内に武装した兵士たちがやってきて銃口を少年に向けた。司会者は慌てて距離を取り巻き込まれないよう陰から状況を見守る。
「とっとと撃ち殺せ!」
そしてアサルトライフルを構えた兵たちが海渡に向けて銃を連射するが。
「ほいほいほいっと」
海渡は発射された弾丸を全てを余裕の表情で掴んでいった。勿論、あまりに速い動きなため撃った兵たちには何が起きたか理解できておらず。
「な、なんだ? 防弾チョッキでも着ているのか?」
「違うよ」
そんな的はずれなことを言う兵に見えるようにパラパラと手の中から銃弾を落としてみせる。
「「「「「「イーーーーーー!」」」」」」
驚愕する兵士たち。一方海渡はあっさりと魔法を構築し、手の中に稲妻を集めた後。
「チェーンライトニング」
それは雷魔法では中級程度のもので海渡からしてみればお遊びのようなものでしかなかったが、彼らには十分効果があったようで、一瞬にして兵から兵に雷が連鎖していきプスプスと煙を上げながら全ての兵が倒れ意識を刈り取られることとなった。
「はい、終わりっと」
「いやはや、ブラボーブラボー」
兵を海渡がサクッと倒すと、賭けに参加していた客の一人が立ち上がり拍手した。
「これはなにかの余興かな? いやはや最新のCGに慣れ親しんだ私でもまるで本物の魔法のように見えたよ」
『魔法だよ正真正銘本物のね』
マイクを使って海渡が答える。
「ははは、聞いたかい皆さん? どうやら彼は現代を生きし本物の魔法使いだそうだ」
ドッと笑いが起きる。柱の陰から見守りつつ会場が盛り上がって良かったなどと呑気なことを考える司会者だったが。
「中々面白いものを見せてもらった。だが、我々がみたいのはそんなマジックじゃなく本物の殺し合いだ。無垢な高校生が生き残るために必死になり、仲の良かったクラスメートを惨殺する! 犯す! 裏切る! そんな血湧き肉躍るような姿が早く見たいのさ!」
「そうだ! くだらない催しはもう結構だ!」
「さっさとゲームを始めなさい!」
『ゲームは始まらないよ。俺がそれをさせない』
野次を飛ばす観客達に海渡がそう答えた。
「ゲームを始めさせないだって?」
『そうだ。そもそもあんたらこんなものみて何が楽しいんだ? ただの悪趣味だろこんなもの』
「はは、今度は我々を批判かね? まさか、お前は本当にこのゲームをやめさせるつもりとでも? だとしたらとんだ蛮勇もいたものだ」
「全くだ。本気ならただの阿呆だな」
「大体、顔を堂々と晒してそんな事を言って、後先を考えてない馬鹿もいいとこ」
『ふ~ん、顔を晒したら不味いんだ』
観客たちが嘲笑してきたので海渡は逆に聞いてみた。
「当然だ。顔を晒している時点でお前は自分がどこの誰かなどすぐにわかる」
「貴様の家族もすぐに判明する」
「ここの運営の力があればその時点でお前の家族や身内を皆殺しにするのも容易いわ」
『随分な自信だね。だからお前らはそうやって顔を仮面で隠しているのか?』
「当然だ。この手の裏のイベントに参加するのに素顔を晒す馬鹿がどこにいる?」
違いない、と一様に笑い出す。それを見て、でも、と一言海渡が発し。
『ゲームに巻き込まれた相手だけ顔を晒してお前らだけ顔を見せないなんてフェアじゃないだろう? だから折角だからそんなもの取ってしまえばいい』
そう言って海渡が指をパチンッと鳴らした直後――会場にいた全ての人間の仮面が消え失せるのだった。
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